だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「姫、さん……!?」
「え」
「…………っ」

 師匠の懐で暖を取っていると、慌てるような師匠の声と当惑するマクベスタの声と、声にならない叫びを上げるイリオーデの息が聞こえて来た。
 歩くストーブを独り占めしたから文句を言われても仕方ないだろう。だがとりあえず今はこうさせて欲しい。血筋のお陰か知らないけど、めちゃくちゃ寒いと言う訳では無いんだ。
 ただ何となく、今はとても人肌が恋しい気分で。

「あ、ごめんね師匠。動きづらいし邪魔だよね。あと一分だけこのままでいさせて……師匠めちゃくちゃ温かいから……」
「別にこれ自体は全然問題無いし俺としては寧ろ大歓迎っすよ? でもほら…………これは本当に、なんつーか、不味いっつーか……シルフさんに知られたらまァ確実にシメられるっつーかァ……」

 師匠の胸元で暖を取っていると、その師匠がやたらと早口でごにょごにょ何かを呟いている。半分ぐらい聞き取れなかった。
 そうこうしているうちに一分経ち、私は「ありがとう師匠!」と言いながらホクホク顔で離れる。歩くストーブから離れた反動でちょっと顔がより寒く感じるけど、もう問題無い。全然耐えられる寒さだわ。

「………アミレス。先程から気になっていたんだが……そこの男、誰だ?」

 マクベスタがチラチラとアルベルトを見ながら聞いてくる。そのアルベルトはというと、師匠を見て唖然としながら固まっている。
 ……そう言えば数日前に師匠が刺されて逃げたばかりだものね。心臓を刺した相手が逃げただけでなくこうピンピンと生きていては、刺した側としては困惑することだろう。
 ごほん、と咳払いをして私はアルベルトの事を紹介する。

「ええと、こちらが私達の探していた殺人鬼《はんにん》……のアルベルトよ。こうして捕縛して色々事情を聞いていたの」

 捕縛したのは私じゃないけどね。と思いつつ話すと、三人はぎょっとして、

「姫さんあんたまた無茶したんすか!?」
「お前は本当に……どうしてそう……!」
「して犯人はどうなさるのですか。ここで殺しますか?」

 冷や汗を滲ませくわっと怒ったり、額に手を当てひねり出すようなため息を吐いたり、真顔で剣を抜いたりした。イリオーデの殺意が凄い。
 私は、無茶はしてないしこの人は殺さないよ、と告げた。
 そして、困惑するイリオーデ達に向けて私はアルベルトから聞いた話を掻い摘んで話した。その中でも、主に隷従の首輪について。
 その一連の話を聞いたイリオーデは、ふむ……と一考する。彼ならきっと私の思惑に気づいてくれると思ったので、それを待つ事にした。
< 579 / 1,368 >

この作品をシェア

pagetop