だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「とにかく。私の考えに賛同してくれるよね?」

 皆、アルベルトと仲良くしてね。とにっこり笑顔を作り、圧をかける。三人共「……はい」と快く承諾してくれたので、後はハイラにも協力を仰げば何とかなるかしら?
 ケイリオルさんにも話を通して……隷従の首輪に限らず、奴隷問題や人身売買に関する事ならあの人も協力してくれる筈だ。人身売買を廃止した皇帝の御世で未だあのような負の遺産が残っているなど、と怒りを口にする事だろう。
 何でそんなに皇帝を敬愛しているのかは知らないが、皇帝ゼッターイなケイリオルさんならあの首輪の事……そしてアルベルトを奴隷のように扱っている男爵とやらの事を許さないだろうし。
 後の問題は……やっぱりサラよねぇ。どうやって引き合わせればいいのかしら。そもそもサラは記憶喪失だと打ち明けた方がいいのかしら。
 と、唸っていると。

「…………サラ?」

 イリオーデが、アルベルトの顔を見てボソリとこぼした。
 そうか。イリオーデもディオ達と一緒に貧民街で暮らしてたんだもの、サラと面識があって当然だ。
 突然、知り合いであるかのように知らぬ名前を呼ばれたアルベルトは、頭に疑問符を浮かべながらイリオーデを見上げた。

「……俺の名前はアルベルトだ。そのサラと言う名前では無い」
「いや、すまない。知り合いと瓜二つで……」
「瓜二つ……? そのサラと言う男の首元に、黒子が二つ無かったか? もしそうだとしたら、それは俺の弟かもしれないんだ」

 弟を知る人間が現れたのやもしれない、と希望を見たアルベルトがイリオーデに必死に弟さんの特徴を伝える。
 首元の二つの黒子……ってやっぱりサラじゃないの。それアンディザファンの間でドスケベセクシー黒子って言われてたやつじゃないの。何か本当にごめん。

「あった気も──そうか、お前は記憶を失う前のサラの血縁者か。成程、だからこんなにも……」

 あ、やべ。いつサラが記憶喪失だと打ち明けるか悩んでたのに、イリオーデがサラっと言っちゃった。サラだけに。

「記憶、喪失──?」
「九年程前だろうか。何も覚えていない黒髪の少年が私達の住む貧民街に来て、そこでうちの纏め役……の男から便宜上とりあえず『サラ』と言う名前を与えられていた。一年程共に暮らしていたのだが、ある日を境にサラは姿を消し、それ以来は私達も誰一人サラとは会っていない」
「九年前……じゃあ、やっぱり、そのサラという男がエルなんだ……! 本当に、帝都にいたんだ……っ!!」

 生き別れの弟が記憶喪失だと知ったにも関わらず、アルベルトは何度も「良かった」と繰り返し涙を流していた。
 それも束の間、アルベルトはバッと顔を上げて。

「貴方に会った時、エルは……弟はっ、怪我はしてなかったか? どこか病気があったり、苦しんでいる様子は無かったか……?!」
「私の記憶の限りでは傷病の類は無かった。それこそ記憶喪失と言う点だけだったな、問題は」
「そう、か…………エル、無事……だったんだ……良かった……っ」

 イリオーデがそう断言すると、アルベルトの顔がふにゃりと崩れ、安堵からか力の抜けた体でベンチに倒れ込んだ。
 もうずっと、とめどなく溢れている彼の涙をもう一度拭ってあげようと手を伸ばすと、師匠が「今はそのままにしておいてやりましょうよ」とそれを制止した。
 それもそうね、と見上げたその時。ついにあの男が戻って来た。
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