だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……痛くないの、それ」
「そりゃ痛てーけど……兄貴達に虐められた時よかマシだな。だってただ剣が刺さっただけだし。抉られた訳でも切り裂かれた訳でもねぇからな」

 それはゲームでも語られたカイル・ディ・ハミルの幼少期の話。兄王子二人に嫌われていたカイルは幼い頃からよく酷い目に遭っていたらしいのだ。
 流血沙汰なんていつもの事とゲームでカイルが語っていたが、まさかそこまでとは。この世界の人達はどうしてそう悲惨な過去を持ちがちなんだ。

「……ハイラ、包帯とか持って来て。このままだとこの部屋が彼の血で汚れちゃうから」
「畏まりました」
「ひでぇ言い方だなあ。そうならないようにこうして服で血を受け止めてるのに」
「はいはい。で、首輪の方はどうなったの? まだ途中?」
「いんや、もう全部終わったけど。魔導具としての機能は一時的に全停止。今はただの首輪だから鍵さえあればいつでも外せるぜ」
「……鍵さえあれば、か」

 あまりにも仕事が早すぎるカイルからの報告を受け、私はスタスタスタとアルベルトに近寄っていった。
 契約とやらの方をカイルが一時的に強制停止させたようなので、後必要なのは鍵のみと。ならば私の出番じゃないか!
 首輪の錠前部分に触れ、私は水を出す。そしていつも通り、それを内部に流し込んで鍵穴の形に合わせて氷に変える。そしてそれをガチャガチャと何度か回すと。
 ガチャリ、と聞き慣れた音が聞こえて来る。
 それを間近で聞いて驚くアルベルト。私はゆっくりとその首輪をアルベルトから外してあげた。

「あ…………首輪、が……俺、これでもう……っ」

 これまでの一年間で彼を苦しめ続けた最悪の呪縛。それから解き放たれて、アルベルトは嬉しそうに涙していた。
 しかしどうやって鍵を、と私の方を見てくる皆に……私はついに説明する事にした。説明していい? とシルフの方を一度ちらりと見ると、シルフも仕方なさそうに頷いたのだ。

「凄い今更な気もするけど……まぁ、簡単に言えばこういう事よ」

 私は手元で水の玉をふよふよと浮かせてから、それを氷に変えた。
 たまげた顔をする人達に向け、解説していく。

「私が水の魔力しか持ってなくて、この血筋特有の氷の魔力を持たないのは有名な話でしょう? だからね、氷の魔力が無くて皇族の恥晒しって呼ばれてる私が、こうして氷も作れてしまってはちょっとした騒ぎになりかねないから……今まで黙ってたのよ。ごめんね」

 皆には隠してたけど、これまでも何度か氷作って戦ったり作業したりはしてたからね。
 まぁ、この場にいる人達は信頼が置ける……というか、これをわざわざ外に漏らしたりしないでしょうし。
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