だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

132.敵に回してはならない人

 明朝、ハイラは一束の報告書を手にここの所行き慣れている部屋へと向かった。
 そこはフォーロイト帝国現皇帝唯一の側近であり、この国で最も忙しいと称される程に様々な役職を担う圧倒的社畜の執務室。
 城勤めの者達が一部を除き比較的ホワイトな環境で働けているのはひとえに彼の尽力あっての事と言っても過言では無い程、一人で膨大な仕事を抱え込み全て捌き切る圧倒的超人の本拠地。
 彼の仕事振りを見たものは口を揃えてこう語る──。

『いや、あんなの最早人間業じゃないって』
『あの人確実に人間辞めてる。絶対生まれた時から人智を超越してる』
『同じ人間と思った事は一度も無い。というかそんな風に考える事すら烏滸がましい』
『皇帝陛下から信頼されてるだけはある優秀さ』
『神出鬼没過ぎて人じゃない何かだと思ってる』
『めちゃくちゃ偉い人なのに意外と気さくで部下思いで本当に最高の人……一生ついてきます……!』

 皇帝の次に権力を持つ相手に対して、割と随分な言いぶりだが……どこで話を聞いてもこういった意見が九割を占めるのである。残りの一割は──彼の冷酷な一面に地獄を見た者達の意見だろう。
 そんな誰もが『人間を辞めている』と語る男、ケイリオルの執務室にハイラは今、向かっていた。
 理由は簡単──……殺人鬼・アルベルトに隷従の首輪を嵌め、様々な悪事を強要した例の男爵を法的に裁く為である。
 本来裁判にはそれなりの準備期間と費用、そして司法機関への申請が必要なのだが……今はそのような事を言っている場合ではない。
 今すぐにでも裁判を起こし、男爵を引きずり出して法の裁きを下す必要がある。
 というか、少しでも早く大元を潰さなければ、アミレスが余計な無茶をしかねない。そんな本音の元、ハイラは最終手段とも言える存在の元を目指しているのだ。
 その道中であった。ハイラがピタリ、と足を止めるとそこには軽食の置かれたトレイを持つケイリオルがいた。

「おや、おはようございます。ハイラさん」
「……おはようございます、ケイリオル卿。そちらは?」
「これですか? 手作りの朝食ですよ、私の。私も人間ですから、食べなければやっていけませんので」
「……それもそうですね」

 この時ハイラは当たり障りのない笑みを浮かべ、思った。そう言えばこの人普通の人間だったな、と。
 そして二人は並んで歩き出した。ハイラの用事がケイリオルへの報告である事を知ったケイリオルは、「では少し急ぎましょうか」と共に彼の執務室を目指す事にしたのだ。
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