だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「時にハイラさん、爵位簒奪計画の方はいかがですか?」
「……順調かと。それなりに社交界へと被害を拡散する一件になると思います」
「ふふ、それは楽しみですねぇ。今まで見逃して来てやった悪事の数々が白日の元に晒される様はきっと痛快な事でしょう」
「やはり。卿は気付いてらしたのですね」

 道中の世間話、そこで楽しげに笑い声をあげるケイリオルに、ハイラは納得したような小さな息をはぁ……と吐いた。

(……あれ程に稚拙な横領や着服に彼が気付かぬ筈も無いと思っておりましたが……罪が更に重なるまで泳がせておいたなんて。何とも良い性格をしていらっしゃる方ですね)

 ちらりと横目でケイリオルを見上げると、金色のふんわりとした後頭部の毛先が少し脱色しているのか、銀色のようにも見えた。
 アミレスの持つ美しい銀髪とも似たそれに目を奪われ、ハイラが暫く眺めていると、

「──私に、何かご興味がおありですか? そんなに見つめて…………私、ミステリアスな人間ですので秘密は秘密のままで維持していたいのですが」

 背を曲げて、ケイリオルが布を付けたその顔をハイラの目と鼻の先まで近づけた。
 今、二人を妨げるものは布一枚のみ。突然の事にハイラが玉のような冷や汗を一粒浮かべて目を点にしていると、ケイリオルが「ふふっ」と上品な笑いをこぼしながら姿勢を正した。

「すみません、この通り詮索されるのはあまり好きでは無くて。美人な方に見つめられる事もあまり得意では無いので」
「……そうですか、こちらこそ不躾にじろじろと見てしまってすみません。不快でしたでしょう」
「決してそのような事は。ハイラさんのような美人な方に見つめられる等、男冥利に尽きると言うものです」
(発言が二転三転してますね)

 ハイラは冷静に心の中でツッコんだ。まるで何も考えていないかのように発言がコロコロと変わるケイリオルに、つい、「ふっ」とハイラは失笑が漏れてしまった。
 それにぽかんとしつつも、特に咎めたり気を悪くはしないケイリオル。存外にも穏やかな道中となっていた。

「時にケイリオル卿、以前からお聞きしたい事があったのですが」
「はい、何ですか?」
「卿は何故、常に顔を隠していらっしゃるのでしょうか」

 サラリと、ハイラはこれまで誰も聞く事の出来なかった疑問をケイリオルにぶつけた。それにケイリオルは特に迷う素振りを見せる事無く、返事をした。

「顔を隠したかったから、としか。細かい理由については語れませんので、代わりに私の年齢をお教えしますね」
「いえ、結構です」
「私は今年で三十八になりました」
「…………以外とお年を召していらしたのですね、お若い声でしたので二十代かと思っておりました」
「ははは、私はこれでも陛下が即位なされる以前より仕えておりますから。それなりに歳はとってますよ」

 聞いてもいない事の答えを教えられたハイラであったが、実際にそれを聞くと、予想外の数字につい反応してしまった。
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