だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(王女殿下一人でと考えるのは少々現実的では無い。十中八九協力者がいると思うのですが──……まぁ、今回は気にしないでおきましょう。王女殿下が犯人を捕縛した方法よりも、隷従の首輪と黒幕の確保が最優先事項なのだから)

 確かにアミレスはフォーロイトの血筋の人間らしく、それなりには強いが……それでもまだたった十二歳の少女だ。闇の魔力を持つ剣術に秀でた大人の男を一人で捕縛するのは無理だろうと、ケイリオルは結論づけたのだ。
 しかし、今のケイリオルはそれを問題としていない。それよりもずっと、重要な問題があるからだ。

「して、視覚の問題とは?」
「は、どうやら犯人は現在赤色以外の色を認識出来ないようでして。それ以外全ての色が白か黒……及び灰色に見えているとの事です」
「……だから赤髪の人間が狙われていたのですね」
「黒幕がわざわざ帝都にいる赤髪の人間を探しては犯人に指示していたようです」
「はぁ、想像以上にくだらない真相ですね……」

 ため息をつきながら、ケイリオルは布越しで額に手を当て項垂れた。何か意味があるに思えた連続殺人に実は大した意味が無いと分かってしまい、肩透かしを食らったようなものだからだ。

「黒幕の名は──マルコ・シルヴァスタ男爵。表向きには慈善事業や教会への寄付を行う善性の貴族ですが、裏では己の特殊嗜好を満たす為に悪逆の限りを尽くしているそうです」
「シルヴァスタ男爵……ああ、あの小物ですか。あれが黒幕と……」

 ついに明かされた黒幕の名を聞いて、ケイリオルの口端がニヤリと鋭く弧を描いた。

「その事を私に報告したと言う事はつまり──私の方で強硬手段に出ろ、という訳ですね?」
「はい。正式な手順に則り裁判を起こすとなると時間がかかります。その間に黒幕は雲隠れするでしょう。ですので、卿の権限で強硬手段に出て欲しいのです。黒幕が逃げ出す暇など無い内に」
「──承りました。あくまでも越権行為とならぬよう細心の注意を払い、私の持てる全権限を駆使して黒幕を裁きましょう」

 ケイリオルがそう宣言すると、ハイラは役目を終えたとばかりにホッと小さく肩を撫で下ろした。
 そのすぐ後に、「では私はまだ仕事が残ってますので」とハイラが退室しようとした所で、

「まだ幾らか報告書を持っているようですが、どちらへ?」

 とケイリオルが引き止める。ハイラは少しだけ振り向いて、

「……時間稼ぎのようなものです。シャンパージュ伯爵に、偽の号外を出していただこうかと」
「もしや、連続殺人事件の?」
「えぇ、まさにそれです。存在しない八人目の被害者の情報を号外として出すのです」

 その概要を聞いてすぐ、ケイリオルはほぅ……と感嘆した。
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