だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(黒幕にこちらが全て気づいていると勘繰られないようにする為の作戦でしょうか。それにしても中々に大胆な作戦だ……まさか、帝都全域に配られるシャンパー商会の新聞が偽物だとはさしもの黒幕も考えないでしょうし。考案者は王女殿下だろうか…………)
と感心するケイリオルではあるが、実際にはカイルが適当に提案しただけの骨組みに、シャンパー商会を巻き込むと言う彼女等ならではの特殊な方法で肉付けした作戦がこれである。
「では、今度こそ私はこの辺りで」
「引き止めてしまいすみません。朝は冷えますしお気をつけて」
「……卿も、少しは体調に気を使って下さいね。朝早くから失礼致しました」
ぺこりと一礼し、ハイラは退室した。その後早朝で人もほとんどいない事をいい事に、ハイラは思い切り廊下を走り抜けた。そして上着を着て厩舎より馬を一頭拝借し、それに跨り朝の寒空の下を疾走する。
行先はシャンパージュ伯爵邸。仕事人の伯爵はこのような早朝でも既に目を覚ましており、突然訪ねて来たハイラに驚きつつも彼女を邸に招き入れた。
そして事の経緯を聞き、伯爵は二つ返事で首を縦に振った。ハイラから偽の八人目の被害者についての原稿を預かり、その日の昼過ぎには号外として街に配ると確約した。
伯爵との取引を終えたハイラは急いで皇宮に戻り、そしてアミレスの朝食作り等の通常の仕事に取り掛かった。その傍らには、見慣れぬ男女が一人ずつ。
男はゼル、女はマーナ。ハイラの小間使い──もといお手伝いとして近頃東宮にいたりいなかったりする、ララルス家秘蔵の諜報部隊カラスのメンバーである。
ちなみに私兵団に剣や戦い方を師事しているキールもまた、カラスのメンバーなのだ。信の置ける者しかアミレスに近づけたくないハイラが考え出した苦肉の策、それが手下の諜報部隊の者達に副業をさせる事だったのだ。
「ゼル、それが終わり次第鍋の方を見ておいてください。マーナは食器を今一度洗っておくように」
「イェッサー」
「は、はぁーい……」
テキパキと指示を飛ばしつつ一人で十人分近い働きをするハイラを見て、ゼルとマーナは心底思う。
(お嬢、頼むからそろそろ新しく人雇ってくれないかな……副業のが本業より忙しいとかある?)
(料理が終わったら東宮全体の掃除でそれが終わったら庭の手入れでそれが終わったら──……ってもう無理〜! 侍女の仕事が諜報活動より大変なんて聞いてないって〜!! お嬢様は何でこんなの好きでやってるんだろ……)
心の中でこっそり恨み言をこぼしつつ、二人は指示通りに働く。
八年程前の皇宮侍女の腐敗っぷりを体感したハイラだからこそ、アミレスの為に超少数精鋭で働く事を選んだのだ。それで幾度となく裏で過労で倒れそうになっても、ハイラはアミレスの安全の為に、有象無象が東宮を闊歩する事が無いよう尽力して来た。
それを影ながら支えて来たカラス達は、主《ハイラ》がまた無理をして倒れそうになるのではと心配なのだ。
(さて、今日の朝食も腕によりをかけて仕上げましょう。姫様の朝がより良いものとなり彩られますように)
しかし部下の心、上司知らず。ハイラは過労気味である事は最早度外視でこの仕事を楽しんでいた。
そう、言うなれば──アミレスの侍女とは、彼女にとって天職そのものなのだ。
と感心するケイリオルではあるが、実際にはカイルが適当に提案しただけの骨組みに、シャンパー商会を巻き込むと言う彼女等ならではの特殊な方法で肉付けした作戦がこれである。
「では、今度こそ私はこの辺りで」
「引き止めてしまいすみません。朝は冷えますしお気をつけて」
「……卿も、少しは体調に気を使って下さいね。朝早くから失礼致しました」
ぺこりと一礼し、ハイラは退室した。その後早朝で人もほとんどいない事をいい事に、ハイラは思い切り廊下を走り抜けた。そして上着を着て厩舎より馬を一頭拝借し、それに跨り朝の寒空の下を疾走する。
行先はシャンパージュ伯爵邸。仕事人の伯爵はこのような早朝でも既に目を覚ましており、突然訪ねて来たハイラに驚きつつも彼女を邸に招き入れた。
そして事の経緯を聞き、伯爵は二つ返事で首を縦に振った。ハイラから偽の八人目の被害者についての原稿を預かり、その日の昼過ぎには号外として街に配ると確約した。
伯爵との取引を終えたハイラは急いで皇宮に戻り、そしてアミレスの朝食作り等の通常の仕事に取り掛かった。その傍らには、見慣れぬ男女が一人ずつ。
男はゼル、女はマーナ。ハイラの小間使い──もといお手伝いとして近頃東宮にいたりいなかったりする、ララルス家秘蔵の諜報部隊カラスのメンバーである。
ちなみに私兵団に剣や戦い方を師事しているキールもまた、カラスのメンバーなのだ。信の置ける者しかアミレスに近づけたくないハイラが考え出した苦肉の策、それが手下の諜報部隊の者達に副業をさせる事だったのだ。
「ゼル、それが終わり次第鍋の方を見ておいてください。マーナは食器を今一度洗っておくように」
「イェッサー」
「は、はぁーい……」
テキパキと指示を飛ばしつつ一人で十人分近い働きをするハイラを見て、ゼルとマーナは心底思う。
(お嬢、頼むからそろそろ新しく人雇ってくれないかな……副業のが本業より忙しいとかある?)
(料理が終わったら東宮全体の掃除でそれが終わったら庭の手入れでそれが終わったら──……ってもう無理〜! 侍女の仕事が諜報活動より大変なんて聞いてないって〜!! お嬢様は何でこんなの好きでやってるんだろ……)
心の中でこっそり恨み言をこぼしつつ、二人は指示通りに働く。
八年程前の皇宮侍女の腐敗っぷりを体感したハイラだからこそ、アミレスの為に超少数精鋭で働く事を選んだのだ。それで幾度となく裏で過労で倒れそうになっても、ハイラはアミレスの安全の為に、有象無象が東宮を闊歩する事が無いよう尽力して来た。
それを影ながら支えて来たカラス達は、主《ハイラ》がまた無理をして倒れそうになるのではと心配なのだ。
(さて、今日の朝食も腕によりをかけて仕上げましょう。姫様の朝がより良いものとなり彩られますように)
しかし部下の心、上司知らず。ハイラは過労気味である事は最早度外視でこの仕事を楽しんでいた。
そう、言うなれば──アミレスの侍女とは、彼女にとって天職そのものなのだ。