だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……っ! ケイリオル殿、これは本当なのか?」
「嘘ではないようでした。ですので、えぇ──憎らしい事に、隷従の首輪がまだ現存している事になりますね」
「こりゃあまた……本当に僕の許可状が必要な案件だな、これは。殺人法、市民尊重法、奴隷禁止法、特定魔導具所持禁止法は確実。それに加えてまだ後六〜九個ぐらいの法に引っかかってるな、この報告書を見た限りでも。全然余裕で書けますわ、許可状」

 後頭部をガシガシと掻きむしりながら、ダルステンは失笑を漏らした。予想以上の重罪の数々に、これは確かに許可状が必要な案件だ……と認識したからである。

(いや、どうやったらここまで罪を重ねられんだよ……)

 呆れきったように乾いた笑いを浮かべるダルステン。報告書に目を通せば通す程増える罪の数々に頭が痛くなってきたのだ。
 どんな凶悪な犯罪者でもここまでレパートリーに富んだ犯罪は行わないからだろう。それだけ、シルヴァスタ男爵はろくでもない罪を多岐にわたり犯して来たのだ。

「では、許可状を今すぐ書いていただけますね?」
「はいはい分かってますよ、今から書くんでちょっと待っててくれ」

 よっこらせ、とダルステンは己の席に腰を下ろし、引出しから許可状の用紙を取り出した。そして当然のように美しく一切のミスもズレも無い文書を制作する。
 一度もそのペンが止まる事は無く、あっという間に許可状を書き終えたダルステンは最後に司法部部署長の印を押し、それをケイリオルに差し出した。
 ケイリオルはそれを受け取り、「ありがとうございます」とお礼を告げた。

「捜査、今日からやるつもりなのか?」
「そのつもりです。各部署への通達と実働隊の編成、そして念の為にも皇太子殿下に許可をいただくつもりですので……遅くても夕方には実行したいですね」

 ケイリオルも叶うならば今すぐにでも黒幕──シルヴァスタ男爵を捕まえたいのだが、それは法律上不可能。なので、法に則る正式な手段を一々選ぶ必要があり、それにかなり時間を食われてしまうのだ。
 なので、諸々の準備を終えて夕方には実行に移したいと語るケイリオル。それを受けてダルステンはまた新たな書類を取り出し、カリカリと文字を書き連ね始めた。それは、部下に後で渡す事になる裁判に関する指示書であった。

「じゃあこっちも出来る限り早く開廷出来るよう下準備だけはしときますわ。実際に裁判の準備をするのは、あんた等がある程度の物証とか発見してからになるでしょうけど」
「では、とりあえず現在可能な範囲での準備をお願いしますね」
「お任せを。罪人に必ず法の裁きを受けさせるのが僕達の仕事なんでね」

 ニヤリと、鋭い眼光で法を司る男は笑った。ケイリオルが用事を終えて部屋を去った後、ダルステンは背を伸ばし大きく口を開けて欠伸をするも、

「っあ〜〜〜……よし、やるか!」

 自身の両頬を叩いて喝を入れ、仕事に向き直った。
 結局仮眠らしい仮眠もとれないまま彼は仕事に精を出す。城勤めの者達の労働環境は意外な事にホワイト寄りなのだが──……その代わりに、ダルステンやケイリオルと言った管理職に就く者が極度に働き詰めである事を知らぬ者は、城勤めの者達の中にはいない……。
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