だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「分かりました、許可します。皇帝陛下が代理人フリードル・ヘル・フォーロイトが、司法執行許可を証明しましょう」

 フリードルは堂々とした声音で言い放った。まだ齢十四だと言うのに、既に完成されつつあるこの少年を前に……ケイリオルは一抹の不安を抱えてしまった。

(……とてもご立派な姿ですが、これを彼女が見たら……どう思うのでしょうか)

 それはあまりにも皇帝そっくりに成長しつつあるフリードルを思っての事。それはかつて彼の母と話していた他愛もない話を思い出しての事。
 本当にこれで良かったのかと、ケイリオルはぶくぶくと湧き上がる泡のような些細な不安を抱いた。
 それを振り払うように左右に顔を振って、

「感謝致します、皇太子殿下。我が名にかけて必ずや罪人を法のもとに裁いてみせましょう」

 深く背を曲げた。腰が折れ曲がりそうな程に深く直角な礼。フリードルはケイリオルに顔を上げるように促してから、

「期待しています」

 と眉ひとつ動かさずに宣った。こうしてフリードルからの許可を得たケイリオルは、フリードルと別れて通常業務に戻ろうとする。
 これにてケイリオルがやっておくべき事前準備はだいたい済んだようで、彼は夕方までに片付けておきたい仕事から優先して片付けた。
 昼過ぎにはハイラが依頼した通りにシャンパー商会から号外が出され、帝都の人々はまだ終わらぬ殺人事件に恐怖していた。しかし、その水面下ではこの事件を終わらせようと大勢の人が動き始めていた。
 夕方、実働隊を引き連れたケイリオルはシルヴァスタ男爵の邸へと向かい、万が一にも逃げられぬようにと魔導師に邸を囲む結界を張らせた。
 そして堂々と邸に突入し、慌てて出て来ては青い顔で脂汗をポタポタと落とすシルヴァスタ男爵の出迎えを受けた。

「どうも、シルヴァスタ男爵。特定魔導具所持禁止法を始めとした様々な違法行為を行っていると通報がありましたので、帝国法に則り──確認の為貴殿を強制連行し、家宅捜査の方を行わせていただきます」

 ケイリオルが高々と許可状を掲げると、シルヴァスタ男爵の表情が困惑に醜く歪む。

「ま、待って下さい! そのような事実はありません、全くのデタラメです!!」
(──クソッ! 何故バレた、誰が通報なんてしよったのだ?!!!)

 必死に表情を取り繕い、シルヴァスタ男爵は事実無根だと主張した。しかし、その胸中では彼の悪行を知る内の誰かが裏切ったのだと憤慨していた。

「……──何故バレたか、と言われましても。それをわざわざ貴殿のような忌まわしき罪人に教える訳が無いでしょう?」

 コツン、コツン、と規則正しい足音が響く。低い声で話しながらゆっくりとシルヴァスタ男爵に歩み寄るケイリオルに、誰もが言い知れぬ恐怖を覚えた。
 その恐怖のあまりか、はたまた冬故の寒さのあまりか……実働隊の何人かが身を震わせた。暖かい屋内の筈なのに、何故だか今ばかりは異様に寒く、凍えるような冷気を感じる邸内にて。
 
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