だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

135,5.ある聖人の役目

「くしゅんっ」

 誰かが僕の噂をしているのだろうか。突然くしゃみに襲われた。
 まぁね、僕だってついつい不老不死になってしまったとは言えど、盛衰が無くなった事以外は人間と変わりないんだ。だからそりゃあ、くしゃみの一つや二つ……してもなんらおかしくないのだけど。
 今回は、うん。場所が悪かったなぁ。

「せ…………」
「聖人様……っ」
「そんな、聖人様が……!」
「……っ?!」

 大司教達の顔からどんどん血の気が引けてゆく。皆、僕の方を見てわなわなと震えている。中には子が死ぬ瞬間を目の当たりにした親のような──恐慌状態の者もいた。
 そう。今は円卓議会中にて。僕は丁度、過保護な人達に囲まれた状態で偶然にもくしゃみをしてしまったのだ。

「だッ、誰か体を温めるものを!!」
「その前にまずは治癒魔法でしょう! 聖人様がもし万が一何か大病に罹っておられたらどうするのですか!!」
「せせせせ、聖人様お身体を休めてください! 誰か、至急寝台(ベッド)を! 聖人様がゆっくりと滋養なされる為の最上級の寝台《ベッド》を用意するのだ!!!!」
「それならば自分が! 至急、倉庫から持って参ります!!」
「ではっ、私は何か体に良い食事の方を用意して来ますわ!」
「聖人様がくしゃみをなされるなんて、きっと相当な事に違いありません……これはもしや、リンデア教の奴等からの宣戦布告……ッ?!」
「もしそうであれば、わたくし共とて黙っていられないわ。よくも我等が聖人様に卑劣な真似を……!!」

 大司教達がいつになく取り乱して大騒ぎする。彼等は本当に面白いなぁ、たかがくしゃみ一つでここまで深読みするなんて。
 ふふ、と微笑ましく様子を見ていた所、横からラフィリアの毒舌がボソリと聞こえて来た。

「馬鹿、過多……」
「そう言ってやらないで下さい、ラフィリア卿……彼等とて聖人様が心配なだけなのです」
「結局、馬鹿」
「ハハ……」

 ラフィリアの無機質な罵倒にジャヌアが彼等の肩を持つも、ラフィリアは一貫して大司教達が馬鹿だと言い切った。まぁ、馬鹿と言うよりかは純粋なんだよね……彼等は。
 僕としてはこのまま暫く成り行きを見守っていてもいいのだけど、しかしそれでは一向に議会を再開出来ない。今回の議題は僕達にとっての厄介事──おっと、間違えた。僕達であろうと一筋縄ではいかない事なので、一応ちゃんと話し合いたいのだ。
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