だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……君達は僕を何だと思っているんだい?」

 つい、気になってしまったのだ。暫く、目にかかるぐらいの彼の黒髪とその隙間から見える不思議な色の瞳を見つめていると。

「聖人様は俗的な病気になど罹られません。何故なら我等が指導者、神の代理人たる偉大な聖人様なのですから!」

 ディセイルは満足気にふんっと鼻息をもらす。答えになってないね、うん。
 言い切った、とばかりにキラキラ輝く彼の顔を見て僕は思う。僕、生まれてこの方ずっと人間なんだけどな。病気にだって普通に罹るよ……百年近く生きててまだ片手で数えられる程しか罹った覚えはないけれど。

「ああそうかい……」

 僕がため息をつくと、

「主、大司教暴走」

 ラフィリアが、早くアレを何とかしろとばかりに大司教達を指さして、僕の服の袖を引っ張る。貴重な光景だからと面白がって様子見していたけど、僕が彼等を止めるのが最も楽な方法である事には違いない。
 幸いにもジャヌアがこっそり展開していた結界のお陰か、誰も議会室からは出られていないようだ。
 確かにこれは止めないとね、とおもむろに立ち上がると何人かが僕に気づきこちらに目を向けた。しかし、まだ半分近い大司教達はぎゃあぎゃあと慌てふためいている。
 彼等を一旦鎮める為にはどうしようか……うーん、難しいなぁ。ああそうだ、前にアンヘル君が言っていたな。人間って言うのは──

「力で捩じ伏せるのが手っ取り早い」

 僕は円卓に拳を振り下ろした。身体強化の付与魔法《エンチャント》で強化された僕の拳は白亜の円卓に亀裂を走らせ、やがてそれを破壊した。

「ハァ……」
「ああ……伝統ある円卓が…………」

 ラフィリアとジャヌアがこの事に驚く……と言うよりかは呆れたり困り果てたりしている。更に右隣ではキラキラした目でディセイルが僕を見上げている。そして問題の大司教達はと言うと。

「…………」

 全員が同じようにポカーンと口を開け、呆然としている。うん、鎮める事には成功したようだね!
 伝統ある円卓を犠牲にしたものの、目的は達成したので良しとしよう。それに、後でラフィリアに直すように言えばなんとかなるからね。ラフィリアは『仕事増加……残業……規定時間超過』と文句を言うだろうけど。

「ライラジュタ、エフーイリル、ブラリー、オクテリバー、マリリーチカ、セラムプス、メイジス。僕は大丈夫だから、静かにしてくれるね?」

 先程騒いでいた面々の名前を一人ずつ呼び、僕は念押した。すると彼等彼女等は緊張した面持ちで静かに己の席に座った。ついでにと残りの面々にも視線を送る。

「アウグスト、ノムリス、ディセイル、ジャヌア、ラフィリア。君達もこのまま静かにしていてくれるかな?」

 僕に名前を呼ばれると、皆はこくりと一度頷いた。
 これで良し、と僕は議会を再開する。……円卓は壊れたままだけど。
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