だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「こちらです、少し頭上気をつけて下さいね」

 ケイリオル案内の元訪れたのは城の大図書室。この国で随一の蔵書率を誇る大きな書庫だ。そこの一角にある早々人が寄り付かないであろう古代書の本棚で、ケイリオルが特定の本を二冊取り出しその場所を入れ替えると、本棚がまるで幻だったかのように消え始めた。
 その光景にダルステンとアルベルトが目をパチパチと瞬かせていると、ケイリオルはそう言って本棚の先に見えた通路に二人を案内した。

「って、勝手に道が塞がったぞおい……」
「アレは魔導具に近いものですからね。その時本棚の前に立っていた人間が全員通路に入ったならば、先程入れ替えた本は元通りの位置に戻り本棚も出現するのです」
「それ僕達に言ってもいいモンなのか? これ、諜報部へ続く通路とかなんだろ?」
「まぁそうですけど……貴方は口が堅いですし問題は無いかと。それに、この通路も所詮数あるうちの一つに過ぎませんからね」

 三人が通路に入ってすぐ、後方には本棚が出現して出口を塞がれた。それに驚いたダルステンに向け、ケイリオルが丁寧に……されどどこか適当に説明を行う。
 ようやく無言から解き放たれた珍道中、しかし未だに喋ろうとしないアルベルトはふと思う。

(…………俺の終身奉仕の場所は諜報部と言うのか。雑用とか……出来るかな、俺。人を傷つける以外の事が、俺にちゃんと出来るのかな)

 ぎゅっ、と自分の片腕を掴みながらアルベルトは俯いた。ようやくシルヴァスタ男爵から解き放たれたアルベルトではあったが、その精神面には未だにあの男の言葉が巣食っていた。
 ──役立たず。顔と力しか能の無い男。拉致監禁や人殺し以外の事は満足に出来ない出来損ない。人としても道具としても欠陥品。
 シルヴァスタ男爵から浴びせられて来た言葉の数々がアルベルトの心に巣食い、彼を蝕む。

『貴方は何だって出来るの。貴方は何だってしていいの』

 しかし。アルベルトの脳裏に浮かぶアミレスの言葉が、その微笑みが……アルベルトを勇気づけた。

(……うん、そうだ。あの御方が言っていた。俺ならきっとやれるって…………あの御方が言うのだから違い無い。きっと、俺ならやれる)

 アミレスは知らなかった……というより、予見出来なかった。あの時目の前の男を元気づける為に放った言葉が、まさか言葉通りアルベルトの何だって出来る才能を開花させる事になるなど、アミレスが知る筈もなかった。
 そう、この男──……後に自重する事を忘れ、己が目的の為に思い切りその才覚を発揮する事になるのだが、それはまだ先の話。

(頑張ろう……死ぬ事以外はかすり傷みたいなものだし、大抵の痛みには慣れてるから。どんな雑用でもこなして、あの御方の役に立てる人間になろう。間接的にでもあの御方の役に立てるのなら俺は満足だ。そしていつかエルを捜し出してエルに会って……罪を償って、最後に、あの御方の為に死にたいな)

 ふんっと鼻息を漏らしてアルベルトは決意した。かなり危うい決意である。
 そしてしばしば隠し通路を歩いていると、ようやく開けた場所に出た。そこは円形の空間で、壁には四つの扉がある。

「なんだぁ、この空間は……」

 何やら少し前の自分と同じ言葉を漏らすダルステンは、眉を顰めて周りをキョロキョロと見渡していた。そんな彼に向け、ケイリオルから説明がされる。
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