だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「見ての通りの通路ですよ。ちなみに四つ中三つの扉は外れでして、誤ってそこに入れば何処に飛ばされるか我々にも分かりません」
「何でそんな危ねぇモンが城に?!」
「我がフォーロイト帝国は元々ハミルディーヒ王国と並ぶ魔導機構《カラクリ》の大国たるフォーロイト王国だったのですから、これはその時代の名残ですよ。帝国政に舵を切ったとは言えど、この氷の城は王国時代から使われているものですから、知られていないだけで城の内部には当時の魔導機構《カラクリ》がかなり残っているのです」
「魔導機構《カラクリ》なんて物がまだ残ってたのか……歴史家とかが聞けば垂涎ものだろうな」
「まぁ、この通り諜報部などが結構普通に使ってしまっているので世間には公表出来ませんがね」

 そう話しながらケイリオルは右から二番目の扉を開いた。その先には更に通路が続いており、意外と長い道のりを彼等は軽い会話をしつつ進んだ。

「そうだ、アルベルトに聞きたい事があったのです」
「……何ですか?」
「生き別れの弟がいるのでしょう? 名前ぐらいは私も聞いておこうかと思いまして。さすればこちらで探す事も可能ですし」

 ケイリオルがアルベルトに会話を振ると、僅かに期待に満ちた目でアルベルトは布で隠されたケイリオルの顔を見た。そして、少し躊躇う素振りを見せつつもエルハルトの話を始めた。

「エルハルト、と言う名前で……俺とそっくりな顔をした三つ歳下の弟……です。ただ…………」
「ただ?」

 妙に引っ張る言い方をするアルベルトに、ケイリオルとダルステンの視線が注がれる。

「……記憶喪失、らしくて。弟が俺と生き別れた後に、記憶喪失の弟と会った人がいて、その人から……聞いたんです。帝都に来るまでの事を、何も覚えてないって」

 まだ消えぬ痣のある整った顔の上で、眉一つ動かさずアルベルトは淡々と話した。それを聞いたダルステンは予想以上に報われない目前の男に対してやるせなさを抱く。

(生き別れの弟を捜しに地方から一人で帝都まで来て、悪人に騙されてあんな首輪嵌められた末に殺しまでやらされて……更にはその捜してる弟が記憶喪失とか、いくらなんでも虚しすぎるだろ)

 アルベルトからの事情聴取でその背景を聞いていたダルステンは、それを把握しているからこそ、あまりにも報われないアルベルトに同情してしまった。
 司法部部署長たる彼が元であろうと何であろうと罪人に同情するなど初めての事であった。今回は事情が事情なだけに、つい憐憫を感じたのだ。

「………それはとても辛いでしょう。私にも、少し覚えがありますので分かります」

 物憂げなケイリオルの言葉に、アルベルトが反応する。
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