だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「貴方も、身内に何か……」
「……そうですね。身内に色々あったのです、私も。大好きな兄とはもう……幼き頃のように話し過ごす事など、永遠に叶わなくて。それを思い出し、恥ずかしながら感傷に浸ってしまいました」
初めて見せたケイリオルと言う男の弱みに、ダルステンは戸惑った。一人っ子で兄弟に関するそう言ったエピソードの無いダルステンは、一人いたたまれない気持ちであった。
(僕、ここにいて本当にいいのか? 場違いじゃないか? つぅか、ケイリオル殿兄弟がいたのか……あんな超人の兄弟なんだから多分そいつも相当な化け物なんだろうな)
きっとそうに違いない。とダルステンは自分を納得させる。こうでもしていないとあまりのいたたまれなさに胃が痛くなりそうなのだ。
しんみりとした空気の中彼等は進み、ようやく目的地へと到着する。謎の扉を開けるとそこには一人の老人が立っていた。
ケイリオルが軽く会釈をすると、その老人もまた同じように会釈を返した。
「ケイリオル様、そちらが例の?」
「えぇ。きっと貴方も気に入る事でしょう」
「…………そうですな。儂の気に入る系統の人間のようです」
シルバーグレーの老紳士が含みのあるにこやかな笑みをアルベルトに向ける。
「儂はヌル、諜報部の部署長をしておる者だ。これからは少年の上司となる。ああ、だが顔と名前は覚えなくて良い。この顔もいつまで使うか分からんのでな」
「……はい、分かりまし……た?」
「諜報部の人間は仕事柄普段から変装をしている者が大半だ。それ故、相手の顔や声が変わる事など日常茶飯事。我々は他者の細かい癖や心音などから相手を特定する必要がある。だから顔と名前は覚えんで良い……まぁ、名前ぐらいは覚えておいた方が良いかもしれんが」
カッカッカッ! とその紳士的な見た目にそぐわない豪快な笑い声を上げて、ヌルは顎髭を撫でる。目の前で分かりやすく困惑しているアルベルトを見て楽しんでいるようだ。
「こら、ヌル。そう捲し立てては彼も戸惑うでしょう。ただでさえ人手不足の諜報部に来た期待の新人が逃げ出したらどうするんですか」
「む、それは困りますな。折角、彼奴にも話の通じる後輩が出来ると思っておったのに」
「……ああ、ではやはり?」
「このような事が起きるとは、いやはや。世間とは存外狭いものですな」
ケイリオルとヌルが二人の世界で談笑する。話に追いつかず、それをボーッと眺めていたダルステンは思う。
(──僕、もう帰っていいか?)
だがそれは叶わない。ヌルの案内でアルベルト達はついに諜報部の部署へと足を踏み入れる。存在する事だけは皆知っているが、何処にあるかなどは誰も知らない最も謎に包まれた部署、諜報部に。
中はどこにでもあるような普通の職場。多くの机が並び、その上には乱雑に資料が置かれている。そして、人っ子一人誰もいない。
「ハハハ、実は現在諜報部所属の者の多くが任務で出払っておってな。紹介などは奴等と会い次第進めよう」
「分かりました」
物分りのいいアルベルトに満足しつつ、ああそれでな、とヌルは続ける。
「……そうですね。身内に色々あったのです、私も。大好きな兄とはもう……幼き頃のように話し過ごす事など、永遠に叶わなくて。それを思い出し、恥ずかしながら感傷に浸ってしまいました」
初めて見せたケイリオルと言う男の弱みに、ダルステンは戸惑った。一人っ子で兄弟に関するそう言ったエピソードの無いダルステンは、一人いたたまれない気持ちであった。
(僕、ここにいて本当にいいのか? 場違いじゃないか? つぅか、ケイリオル殿兄弟がいたのか……あんな超人の兄弟なんだから多分そいつも相当な化け物なんだろうな)
きっとそうに違いない。とダルステンは自分を納得させる。こうでもしていないとあまりのいたたまれなさに胃が痛くなりそうなのだ。
しんみりとした空気の中彼等は進み、ようやく目的地へと到着する。謎の扉を開けるとそこには一人の老人が立っていた。
ケイリオルが軽く会釈をすると、その老人もまた同じように会釈を返した。
「ケイリオル様、そちらが例の?」
「えぇ。きっと貴方も気に入る事でしょう」
「…………そうですな。儂の気に入る系統の人間のようです」
シルバーグレーの老紳士が含みのあるにこやかな笑みをアルベルトに向ける。
「儂はヌル、諜報部の部署長をしておる者だ。これからは少年の上司となる。ああ、だが顔と名前は覚えなくて良い。この顔もいつまで使うか分からんのでな」
「……はい、分かりまし……た?」
「諜報部の人間は仕事柄普段から変装をしている者が大半だ。それ故、相手の顔や声が変わる事など日常茶飯事。我々は他者の細かい癖や心音などから相手を特定する必要がある。だから顔と名前は覚えんで良い……まぁ、名前ぐらいは覚えておいた方が良いかもしれんが」
カッカッカッ! とその紳士的な見た目にそぐわない豪快な笑い声を上げて、ヌルは顎髭を撫でる。目の前で分かりやすく困惑しているアルベルトを見て楽しんでいるようだ。
「こら、ヌル。そう捲し立てては彼も戸惑うでしょう。ただでさえ人手不足の諜報部に来た期待の新人が逃げ出したらどうするんですか」
「む、それは困りますな。折角、彼奴にも話の通じる後輩が出来ると思っておったのに」
「……ああ、ではやはり?」
「このような事が起きるとは、いやはや。世間とは存外狭いものですな」
ケイリオルとヌルが二人の世界で談笑する。話に追いつかず、それをボーッと眺めていたダルステンは思う。
(──僕、もう帰っていいか?)
だがそれは叶わない。ヌルの案内でアルベルト達はついに諜報部の部署へと足を踏み入れる。存在する事だけは皆知っているが、何処にあるかなどは誰も知らない最も謎に包まれた部署、諜報部に。
中はどこにでもあるような普通の職場。多くの机が並び、その上には乱雑に資料が置かれている。そして、人っ子一人誰もいない。
「ハハハ、実は現在諜報部所属の者の多くが任務で出払っておってな。紹介などは奴等と会い次第進めよう」
「分かりました」
物分りのいいアルベルトに満足しつつ、ああそれでな、とヌルは続ける。