だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「だが誰も先輩を知らないというのは些かどうかと思ってな。少年と同じように闇の魔力を持つ者がうちにも丁度いたので、それを少年の教育係とする事にしたのだ。おい、出番だぞ」
「──はい」
(俺以外の闇の魔力所持者……凄いな。そんな偶然、が──……)
ヌルの言葉に呼ばれ、部屋の奥にある扉から一人の男が出てきた。黒い髪に灰色の瞳。とても色白で整った顔の男。
その人を認識した瞬間、アルベルトの瞳は見開かれた。彼の脳が、口が、瞳が反応するよりも先にアルベルトの体が動き出した。
「僕は諜報部所属、偽名《コードネーム》サ──っ!?」
「エルッ!!」
その男が名乗ろうとした時、アルベルトは男に抱き着いていた。自分よりも少しだけ小さい、自分とそっくりな男を……アルベルトは涙を浮かべ、体と声を震わせて抱き締めていた。
男は困惑する。だが、どうしてだろうか。
(…………分からない、どうして、僕はこの人を…引き剥がせないんだ)
男は、初対面にも関わらず知らぬ名を叫びながら抱き着いて来たこの不審者を拒めなかった。それどころか受け入れていた。
「エル、エル……っ! まさ、か……こんな所で、会える……なんっ、て……!!」
(エル──……どうしてか、とても聞き馴染みがある。それにこの人も……分からないけど、僕はずっと、この人に会いたかった気がする)
今日だけで枯れてしまう程に涙を流すアルベルトにつられてか、男も光を宿す灰色の瞳に小粒の涙を浮かべた。それで色白の頬を濡らし、男は無意識のうちに呟いていた。
「にい、ちゃん」
「エル? エル、そうだよ。兄ちゃんだよ。ごめん、ごめん……! 今までずっと、捜し出せなくて……っ、こんな弱くて愚かな兄ちゃんで、ごめんなぁ……!!」
「…………ああ、そうか。貴方は、僕の兄ちゃん……なのか」
(やっぱり記憶が無い……でも、こうしてエルと会えただけで、俺は……っ)
完全なる無意識領域の言葉。それを発した男は、どうしてだかその言葉に深く納得していた。涙を流し、目の前の初対面の筈の男を抱き締めて男は思う。
(この人を兄ちゃんと言った瞬間、どうしようもなく愛おしいと思えた。ずっとずっと探していた宝物を見つけ出せたような、そんな気分だ。あの時からずっと何処かに無くしていた僕の心の穴は、きっと──……この人なんだ。記憶が無くても、忘れていても分かる。僕はこの人の事が大好きだったんだ)
例え記憶が喪われていたとしても。彼の心の奥底に眠る家族への愛は確かに残っていた。記憶喪失と同時に無意識領域に押し込められ、彼自身認識出来なくなっていたそれが、かけがえの無い家族との出会いで解き放たれた。
彼の偽名《コードネーム》はサラ──その本名はエルハルト。九年ぶりに生き別れの兄と再会し、これから徐々にその記憶と失われた時間を取り戻してゆく事になる。
至近距離で闇の魔力の暴走を受け、同じく闇の魔力を持つからか生き残ったエルハルトは代償とばかりにその記憶を奪われ、愛情を心の奥底に封じられた。だがしかし、九年という時間を経てエルハルトはそれらを取り戻す。
あの日の償いのように、最愛の兄の存在によって。心に抱えていた喪失感を失い、その代わりに彼は兄への愛情を記憶と共に思い出したのだ。
「──はい」
(俺以外の闇の魔力所持者……凄いな。そんな偶然、が──……)
ヌルの言葉に呼ばれ、部屋の奥にある扉から一人の男が出てきた。黒い髪に灰色の瞳。とても色白で整った顔の男。
その人を認識した瞬間、アルベルトの瞳は見開かれた。彼の脳が、口が、瞳が反応するよりも先にアルベルトの体が動き出した。
「僕は諜報部所属、偽名《コードネーム》サ──っ!?」
「エルッ!!」
その男が名乗ろうとした時、アルベルトは男に抱き着いていた。自分よりも少しだけ小さい、自分とそっくりな男を……アルベルトは涙を浮かべ、体と声を震わせて抱き締めていた。
男は困惑する。だが、どうしてだろうか。
(…………分からない、どうして、僕はこの人を…引き剥がせないんだ)
男は、初対面にも関わらず知らぬ名を叫びながら抱き着いて来たこの不審者を拒めなかった。それどころか受け入れていた。
「エル、エル……っ! まさ、か……こんな所で、会える……なんっ、て……!!」
(エル──……どうしてか、とても聞き馴染みがある。それにこの人も……分からないけど、僕はずっと、この人に会いたかった気がする)
今日だけで枯れてしまう程に涙を流すアルベルトにつられてか、男も光を宿す灰色の瞳に小粒の涙を浮かべた。それで色白の頬を濡らし、男は無意識のうちに呟いていた。
「にい、ちゃん」
「エル? エル、そうだよ。兄ちゃんだよ。ごめん、ごめん……! 今までずっと、捜し出せなくて……っ、こんな弱くて愚かな兄ちゃんで、ごめんなぁ……!!」
「…………ああ、そうか。貴方は、僕の兄ちゃん……なのか」
(やっぱり記憶が無い……でも、こうしてエルと会えただけで、俺は……っ)
完全なる無意識領域の言葉。それを発した男は、どうしてだかその言葉に深く納得していた。涙を流し、目の前の初対面の筈の男を抱き締めて男は思う。
(この人を兄ちゃんと言った瞬間、どうしようもなく愛おしいと思えた。ずっとずっと探していた宝物を見つけ出せたような、そんな気分だ。あの時からずっと何処かに無くしていた僕の心の穴は、きっと──……この人なんだ。記憶が無くても、忘れていても分かる。僕はこの人の事が大好きだったんだ)
例え記憶が喪われていたとしても。彼の心の奥底に眠る家族への愛は確かに残っていた。記憶喪失と同時に無意識領域に押し込められ、彼自身認識出来なくなっていたそれが、かけがえの無い家族との出会いで解き放たれた。
彼の偽名《コードネーム》はサラ──その本名はエルハルト。九年ぶりに生き別れの兄と再会し、これから徐々にその記憶と失われた時間を取り戻してゆく事になる。
至近距離で闇の魔力の暴走を受け、同じく闇の魔力を持つからか生き残ったエルハルトは代償とばかりにその記憶を奪われ、愛情を心の奥底に封じられた。だがしかし、九年という時間を経てエルハルトはそれらを取り戻す。
あの日の償いのように、最愛の兄の存在によって。心に抱えていた喪失感を失い、その代わりに彼は兄への愛情を記憶と共に思い出したのだ。