だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

141.俺は彼女と出会った。

 想像よりもずっと早く、裁判は終わった。
 俺を苦しめていた隷従の首輪は、もうこの首元には無い。あの男爵も近い内に連続殺人事件の犯人として処刑されるらしい。
 そして俺はあの御方の言っていた通り、死刑にはならず終身奉仕という形で帝国に尽くす事になった。

 あれだけの事をして死刑にならず、こうして罪を償う機会を与えられるなんて……本当に俺は幸運だ。それもこれも全部あの夜、彼女と対峙しなければ齎されなかった奇跡。
 まだ生きていていいのだと、まだエルを捜してもいいのだと……そう思った俺は一人で待機室で微かに泣いていた。もうあんな痛い思いも辛い思いもしなくてよくて、人を殺したり誘拐したりしなくてもいい。男爵の嗜好で傷つけられる人達を見殺しにする必要も無い。その事に俺は喜んでいたのだ。

 男爵が移送されている間、俺はこの部屋で待っておくようにと言われたので大人しくそれに従っていた。だが暇だ、とても暇だ。……ああそうだ、彼女の事でも考えていよう。
 最初に思い出されるはあの夜の事。男爵の命令で街に住む赤毛の少女を殺そうと追いかけ回していた時、俺は数日前に男爵によって負わされた怪我の影響か出遅れてしまい……少女に大通りまで逃げられてしまった。

 別に大通りに逃げられようとも、男爵の命令で俺は正体を隠していたし、それは構わなかった。ただ問題が起きた。
 予定に無い少女がそこにいた。細かい色は分からないが、明るい髪に暗い瞳の可愛らしい少女。その可愛らしい容姿に似合わない騎士のような服を身に纏い、

『っ、出たわね……!!』

 長剣《ロングソード》を片手にこちらを睨んで来た。この少女は恐らく俺が連続殺人事件の犯人だと把握している。その上で、こうして俺と対峙しようとしている。だけど俺は、可能な限り誰も殺したくなかった。男爵の命令で仕方なく嫌々殺しては来たけど……それだって本当に心を殺してやってきた事だったから。

 だから俺は、少女に願った。『俺が殺さないといけないのは、その子だけだ。無闇矢鱈と人を殺したくない。だからお願い、そこを退いて』と言って、邪魔しないで欲しいと。
 本当は誰も殺したくない、傷つけたくないのに。でも俺にはそれが許されなかったから。

『何をふざけた事を言ってるのかしら。お前が連続殺人事件の犯人なんでしょう? 人の命を弄んどいて、その台詞は一体何のつもり?』

 少女の言葉は正しかった。

『この子は絶対に殺させない。私が相手よ、殺人鬼』

 少女はとても強かった。
 その華奢で愛らしい見た目からは想像もつかない程素早く、鋭い剣筋。恐らく彼女は俺を生きたまま捕らえようとしているのだと分かる動きだった。ただ目的の少女だけを狙い続ける俺を、彼女は幾度となく阻む。
 彼女は強い。だけどそれは……恐らく相手を殺す時だけ。こうやって殺さずに倒そうとする時や誰かを守る時にはその真価を発揮出来ない。八年近く騎士達と共に暮らしていた影響か、俺はそんな事をふと考えていた。
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