だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
『俺の話を信じてくれて、ありがとうございました』

 その夜の別れ際、俺は彼女に向けてこれまでの人生で一番深く背を曲げて感謝を伝えた。どうしても伝えずにはいられなかった。欺瞞だらけのこの世界で、初めて俺に対して嘘をついたり騙したりして来なかった彼女に……俺はどうしても感謝を伝えたかったのだ。

 そしてその翌日の夕方。早くも騎士団と警備隊が動き、男爵と俺は強制連行された。そうなるかも、とは彼女から聞いていたので……俺は大人しく役人の指示に従い、事情聴取の際に聞かれた事は全て話した。
 ああでも、彼女の事は話さないように心掛けた。もし俺が余計な事を言って彼女に迷惑をかけてはいけない。俺みたいな殺人鬼相手にその名にかけて誓ってくれたあの御方に、俺なんかが迷惑をかけてはいけない。当然の事だ。

 事情聴取が終わったら地下監獄と呼ばれる場所に移送され、俺は他に人のいない牢に一人になった。その後は……毎日ずっと、脳内でエルとあの御方の事ばかり考えていた。いつかの未来でエルと会えたら何をしようとか、あの御方の役に立つ方法は無いかとか。人を殺したり傷つける事以外何も出来ない俺には難しい議題ばかりだった。
 冷たく静かな牢に入ってから何日目の事だろうか。あの御方の友達という精霊、シルフ様が突然牢までやって来たのだ。

『おい、アルベルト』
『はい』

 周りの人に、シルフ様の声が聞かれたら、不味いよな。
 そう思いつつ濃く暗い空間にポツンと座る真っ白な猫に近づき、俺は屈んだ。

『アミィからの伝言だ。『筋書きはもう出来てるから、全て私達に任せて。お前は安心して大船に乗ったつもりでいなさい』だってさ』

 小さく開かれた白い猫の口から出たその言葉に俺は、

『……本当に、あの御方は……凄い人ですね』

 当然の事を口にしていた。それにはシルフ様も『まぁね、ボクの愛し子なのだから当然だけど』と満足げに反応した。しかしその後、そのシルフ様が思い出したように俺に問うてきたのだ。

『──あ。ねぇ、お前、何なの?』
『…………何とは?』

 質問の意図が分からない。

『何でアミィにあそこまで肩入れされてるんだ? お前に同情の余地があったからとか……そういう理由だけじゃあ無いだろ?』

 それは俺が一番聞きたい。どうしてあの御方が……あんなにも殺意に満ちた目で俺と対峙していたあの御方が、慈愛に満ちた目で俺に微笑みかけたのか俺にも分からない。俺はただ、彼女の慈悲に甘えていただけの最低な男に過ぎないから。
 だから俺は、

『……俺が、聞きたいぐらいです。あの御方が俺の言葉を信じて、真っ直ぐ向き合ってくれて……その上であんな風に寄る辺になってくれた理由なんて……俺も、知りません。答えられなくて、ごめんなさい』

 シルフ様の望む答えの出せなかった事に謝罪した。どこか物悲しげな声で『そう。知らないのか……相変わらずアミィは、ボク達には何も教えてくれないんだね』と言い残し、シルフ様は地下監獄を後にした。
 その次の日かな。裁判が行われ──……その結果、俺は終身奉仕と言い渡された。それもこれも全てあの御方のお陰だ。あの御方は今までの誰とも違い、一つずつ、俺と交わした口約束を果たしていったのだ。
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