だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「ごめんなさい。私がもっと早くこの事件に関心を抱いていれば、貴方は無駄な殺しをしなくて済んだのに。色々と……遅れてしまって本当にごめんなさい」

 驚き、言葉を失う。

「七人も殺させてしまってごめんなさい、これまで一年間貴方を救えなくてごめんなさい、黒幕を今まで捕まえられなくてごめんなさい、貴方の心の叫びに気づけなくてごめんなさい、もっと早く止められなくてごめんなさい」

 まるで我が事のように傷ついた面持ちを作る彼女に、俺は気の利いた言葉一つ送れなかった。ただ、ただ……俺の為に彼女が傷ついてくれた事が嬉しくて、申し訳なかった。

「……──それと、お疲れ様。よく頑張ったね。もう大丈夫だから……貴方を苦しめる物も、人も、もうどこにも無い。貴方は何だって出来るの。貴方は何だってしていいの。貴方はもう自由よ。きっと、望みだってすぐに叶うわ」

 汚れきった俺の手を優しく握って、彼女は柔らかく微笑んだ。全てを慈しみ全てを愛するかのような美しく愛らしい笑みで、俺の全てが浄化されるかのようだった。
 彼女は俺の苦しみを初めて理解してくれた。理解した上で、全て受け入れ包み込んでくれた。最初から俺自身と向き合って、俺なんかの言葉を信じてその名にかけて約束してくれた。

 あんなにも殺意の籠った瞳で剣を向けてきた少女が、今やこんなにも慈愛に満ちた微笑みを向けてくる。俺なんかには過分すぎる優しさを与えてくる。
 何も出来ない約立たずで出来損ないの俺に、彼女は何でも出来ると言ってくれた。殺しなんてもうしなくていい、お前はもう他の事をやればいい……そう、言って貰えたような気がした。

 初めて出会えた、俺の理解者。どこか腫れ物のように扱われる事ばかりで、心の奥底から俺の事を気にかけて信じてくれる人なんてこれまでいなかった。
 それに……彼女は俺の能力や容姿を求めていない。俺に何も求めていないんだ。見返りを一切求めず、寧ろ自分にとって危険な橋を渡る事をした。そんな有り得ない優しさをくれた彼女に、俺はどうやって報いればいいんだ。
 何も見返りを求められず、同情とかでも無くただ無償の優しさを与えられた事が初めてだったから……俺はどうすればいいか分からなくなった。何も分からなくて、頭も心もぐちゃぐちゃになった。

「…………俺、もう……苦しまなくて、いい……んだ……っ! あり、がとう……っ、ございま、す……! 本当、に……俺、貴女……に、どう……報いれ、ば…………っ!!」

 目頭が熱くなる。もう何度目かも分からないが、俺は彼女の前でボロボロと涙を流していた。あの夜と同じように、彼女はハンカチを使って俺の涙を拭ってくれた。そして、

「そんな事気にしなくていいのよ」

 困ったように微笑んだ。ああ、どうしてそんなに見返りを求めないんだ。どうして一方的に優しさを与えようとするんだ。
 ぐちゃぐちゃになった頭で考える。俺には何が出来るのか。ぐちゃぐちゃになった心で思う。俺は今この時間をとても心地よいと思っている。

 
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