だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
今まで出会った誰よりも誠実で優しい女神のような御方。エルを捜し続ける俺に、『きっと見つかる』『そのうち見つかる』と諦めきった言葉や嘘ばかりを口にしていた人達と違って……初めてきっぱりと『会わせてみせる』と言い放った変わった御方。
貴女は知らないだろう。その口約束が……その誓いが、どれだけ俺の心を救ってくれたのかを。もう壊れる寸前であった俺の心をそっと癒し、そして救いの手を差し伸べてくれた貴女に、俺はとても感謝している。エル以外の心の支えは初めて出来たんだ。それぐらい、俺にとって貴女の存在はとても大きい。
言うなれば精神的支柱、貴女の存在無くして俺の心は存続出来なかった。
貴女に出会わなければ……俺は確実に、壊れ果て意思も持たぬ男爵の傀儡となっていた事だろう。エルと会う事も叶わず死んでいるかもしれない。
だから俺は、俺という人間を救ってくれた女神のごとき貴女に報いたい。優しさも愛情も慈悲も全て与えるだけで、自分は何も受け取ろうとしない貴女に、俺は一体何を返せるんだ?
この先エルを見つけられて、本当に再会する事が叶った日には……俺は貴女にどれだけの恩を抱えなければならないんだ。返せもしない恩ばかりが積み重なって、俺はまた壊れてしまうんじゃないか?
どうすれば……俺は一体どうすればいいんだ。そう長々と考えているうちに俺の涙はようやく止まって、俺も少しは落ち着いた。そしてそこで、彼女の上質なハンカチをめちゃくちゃに汚してしまった事に気づいた。
俺みたいな愚かで弱い人間が醜く号泣している間、ただ静かに優しく寄り添ってくれただけでなく……俺のような人間が触れる事すら烏滸がましい、小さくて剣のマメのある手で撫でるように優しく背中を摩ってくれたりもして……聖女というのはきっと、彼女のような人の事を指すのだろう。
というか。一国の王女が使うような上質なハンカチを俺が汚した? そんな馬鹿な、何をやってるんだ俺は?!
「またどこかで会いましょう、アルベルト」
困惑する俺を置いて、彼女はふわりとドレスと髪を舞わせて立ち上がった。そして、昔エルと一緒に読んだ物語のお姫様はきっとこんな風に笑っていたのだろう、とふと思い出すぐらい眩しい笑顔で彼女は別れを告げた。
──行かないで。そんな身勝手な言葉がポツン、と心の中に生まれる。こちらに背を向け歩き出す彼女に向け、俺は少しだけ手を伸ばしてしまった。勿論それは彼女に届く筈もないし、届いてはいけないものだ。
彼女はこの国唯一の王女殿下で、俺はたまたま死刑を免れた大罪人なのだから。
……どんどん遠ざかる真っ白な彼女の長髪を目に焼き付けようと見つめ続ける。行かないで欲しい、俺を一人にしないで欲しい。そう思うけど……でも、うん。俺はきっと一人でも大丈夫。だって今俺の心の中にはあの御方が分け与えてくれた優しさがまだ残ってるから。だから俺は独りじゃない。
ああ、何も色の見えない自分の眼をここまで恨めしいと思った事はこの九年で初めてだ。街で聞いた王女殿下のお姿──……月明かりのように綺麗な銀色の髪に夜空のような寒色の瞳……それはきっと、この世で一番美しいものなのだろう。
月は白く、夜空は黒く。もうその本当の色が何色だったかも記憶に残らない俺には分からないから……だからこそ、この眼で見たかった。もう二度と、彼女に会えない可能性だってあるんだ。だからせめて、真正面から彼女と向き合えたうちに……この眼に、焼き付けておきたかった。
俺を救ってくれた女神のような少女の美しい姿を。……まぁ、残念な事に俺の眼では無理だった訳だけど。
貴女は知らないだろう。その口約束が……その誓いが、どれだけ俺の心を救ってくれたのかを。もう壊れる寸前であった俺の心をそっと癒し、そして救いの手を差し伸べてくれた貴女に、俺はとても感謝している。エル以外の心の支えは初めて出来たんだ。それぐらい、俺にとって貴女の存在はとても大きい。
言うなれば精神的支柱、貴女の存在無くして俺の心は存続出来なかった。
貴女に出会わなければ……俺は確実に、壊れ果て意思も持たぬ男爵の傀儡となっていた事だろう。エルと会う事も叶わず死んでいるかもしれない。
だから俺は、俺という人間を救ってくれた女神のごとき貴女に報いたい。優しさも愛情も慈悲も全て与えるだけで、自分は何も受け取ろうとしない貴女に、俺は一体何を返せるんだ?
この先エルを見つけられて、本当に再会する事が叶った日には……俺は貴女にどれだけの恩を抱えなければならないんだ。返せもしない恩ばかりが積み重なって、俺はまた壊れてしまうんじゃないか?
どうすれば……俺は一体どうすればいいんだ。そう長々と考えているうちに俺の涙はようやく止まって、俺も少しは落ち着いた。そしてそこで、彼女の上質なハンカチをめちゃくちゃに汚してしまった事に気づいた。
俺みたいな愚かで弱い人間が醜く号泣している間、ただ静かに優しく寄り添ってくれただけでなく……俺のような人間が触れる事すら烏滸がましい、小さくて剣のマメのある手で撫でるように優しく背中を摩ってくれたりもして……聖女というのはきっと、彼女のような人の事を指すのだろう。
というか。一国の王女が使うような上質なハンカチを俺が汚した? そんな馬鹿な、何をやってるんだ俺は?!
「またどこかで会いましょう、アルベルト」
困惑する俺を置いて、彼女はふわりとドレスと髪を舞わせて立ち上がった。そして、昔エルと一緒に読んだ物語のお姫様はきっとこんな風に笑っていたのだろう、とふと思い出すぐらい眩しい笑顔で彼女は別れを告げた。
──行かないで。そんな身勝手な言葉がポツン、と心の中に生まれる。こちらに背を向け歩き出す彼女に向け、俺は少しだけ手を伸ばしてしまった。勿論それは彼女に届く筈もないし、届いてはいけないものだ。
彼女はこの国唯一の王女殿下で、俺はたまたま死刑を免れた大罪人なのだから。
……どんどん遠ざかる真っ白な彼女の長髪を目に焼き付けようと見つめ続ける。行かないで欲しい、俺を一人にしないで欲しい。そう思うけど……でも、うん。俺はきっと一人でも大丈夫。だって今俺の心の中にはあの御方が分け与えてくれた優しさがまだ残ってるから。だから俺は独りじゃない。
ああ、何も色の見えない自分の眼をここまで恨めしいと思った事はこの九年で初めてだ。街で聞いた王女殿下のお姿──……月明かりのように綺麗な銀色の髪に夜空のような寒色の瞳……それはきっと、この世で一番美しいものなのだろう。
月は白く、夜空は黒く。もうその本当の色が何色だったかも記憶に残らない俺には分からないから……だからこそ、この眼で見たかった。もう二度と、彼女に会えない可能性だってあるんだ。だからせめて、真正面から彼女と向き合えたうちに……この眼に、焼き付けておきたかった。
俺を救ってくれた女神のような少女の美しい姿を。……まぁ、残念な事に俺の眼では無理だった訳だけど。