だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「では……そうですね、クラリスさん。そちらのマントをお借りしても?」
「マント? 構わないけど……何に使うの?」
団服からマントを取り外しながらクラリスが疑問を口にすると、ハイラはアミレスの着ていたドレスを畳みながら答えた。
「姫様の御身体を覆うのです。姫様を寝室にお連れするにあたり、寝巻きのままでお運びする訳にもいかないので」
(…………そうだよね、貴族の人は寝巻きで歩き回ったり……というか普段着をそのまま寝巻きにしないか)
クラリスは密かにカルチャーショックを受けていた。彼女は勝ち気な性格で、男所帯で育った影響か男勝りな所のある美人だ。そしてその綺麗な見た目からは想像しづらいが、生まれも育ちも貧民街なのである。
なので、寝巻きは外に着ていくにはちょっと……といったほつれや破けのある古着だし、寝巻きのままでも気にせず歩き回れる。大体街にいる人間の大半が常に寝巻きを着ているようなものだからだ。
クラリスは団服を着て東宮に避難して来たが……寝る時はハイラがどこからともなく調達してきたサイズもピッタリな寝巻きを着て寝ていた。
その度に彼女は恐れ戦く──……『これが貴族の寝巻き……! 何から何まで違う……っ!!』『いやそもそも何このベッド、え、ふかふかすぎ…………』と、これまでの己の価値観が完全に破壊される瞬間に、彼女は戸惑い興奮していた。
避難の為とは言え、食事といい環境といい服といい……東宮に来てから一週間と少し。全てが帝国内でも最高峰のものを提供された事により、クラリスの価値観は見事壊された。
そして慣れ親しんだ家に帰ったならば、彼女は思う事だろう。あれは全て夢だったのだと……。
「……そうですね。私は寝台《ベッド》を整えなければなりませんし、イリオーデ卿に頼みましょうか」
アミレスの体を完璧にマントで覆い、スっと立ち上がったハイラは扉を開けてイリオーデを呼んだ。そして彼に頼む、「姫様を寝室までお運びして下さいませんか?」と。それにイリオーデは、
「許可なく王女殿下の御身体に触れていいものなのだろうか」
と困惑し、
「非常時ですので……卿を信頼して頼んでいるのですよ」
ハイラにそう言われて、堅苦しい面持ちでその役目を引き受けた。
いつになく緊張しながらイリオーデはアミレスに触れた。彼女を起こさぬようにと慎重に肩と太腿の辺りに自らの手を入れ、ゆっくりと持ち上げる。
ふわりと銀色の髪が重力に引かれて落ちる中、己の腕と胸に完全に委ねられたアミレスの体を見下ろして、イリオーデは心拍数が上がっていた。
「マント? 構わないけど……何に使うの?」
団服からマントを取り外しながらクラリスが疑問を口にすると、ハイラはアミレスの着ていたドレスを畳みながら答えた。
「姫様の御身体を覆うのです。姫様を寝室にお連れするにあたり、寝巻きのままでお運びする訳にもいかないので」
(…………そうだよね、貴族の人は寝巻きで歩き回ったり……というか普段着をそのまま寝巻きにしないか)
クラリスは密かにカルチャーショックを受けていた。彼女は勝ち気な性格で、男所帯で育った影響か男勝りな所のある美人だ。そしてその綺麗な見た目からは想像しづらいが、生まれも育ちも貧民街なのである。
なので、寝巻きは外に着ていくにはちょっと……といったほつれや破けのある古着だし、寝巻きのままでも気にせず歩き回れる。大体街にいる人間の大半が常に寝巻きを着ているようなものだからだ。
クラリスは団服を着て東宮に避難して来たが……寝る時はハイラがどこからともなく調達してきたサイズもピッタリな寝巻きを着て寝ていた。
その度に彼女は恐れ戦く──……『これが貴族の寝巻き……! 何から何まで違う……っ!!』『いやそもそも何このベッド、え、ふかふかすぎ…………』と、これまでの己の価値観が完全に破壊される瞬間に、彼女は戸惑い興奮していた。
避難の為とは言え、食事といい環境といい服といい……東宮に来てから一週間と少し。全てが帝国内でも最高峰のものを提供された事により、クラリスの価値観は見事壊された。
そして慣れ親しんだ家に帰ったならば、彼女は思う事だろう。あれは全て夢だったのだと……。
「……そうですね。私は寝台《ベッド》を整えなければなりませんし、イリオーデ卿に頼みましょうか」
アミレスの体を完璧にマントで覆い、スっと立ち上がったハイラは扉を開けてイリオーデを呼んだ。そして彼に頼む、「姫様を寝室までお運びして下さいませんか?」と。それにイリオーデは、
「許可なく王女殿下の御身体に触れていいものなのだろうか」
と困惑し、
「非常時ですので……卿を信頼して頼んでいるのですよ」
ハイラにそう言われて、堅苦しい面持ちでその役目を引き受けた。
いつになく緊張しながらイリオーデはアミレスに触れた。彼女を起こさぬようにと慎重に肩と太腿の辺りに自らの手を入れ、ゆっくりと持ち上げる。
ふわりと銀色の髪が重力に引かれて落ちる中、己の腕と胸に完全に委ねられたアミレスの体を見下ろして、イリオーデは心拍数が上がっていた。