だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(落ち着け、落ち着くんだイリオーデ・ドロシー・ランディングランジュ! 絶対に失敗してはならない場面なのだぞこれは!)

 ドッドッ、と体中に響くようなうるさい心音。ずっと傍で守りたいと思っていた相手が、今やこの腕の中にいる。オセロマイトに向かう道中ではそれ所では無かった為、こんな風に考える暇もあまり無かったのだが、今は違う。多少なりとも意識する余裕が出来てしまっているのだ。

 想像よりもずっと軽い体。いつもドレスで隠れている為か分からなかったものの、とても細い手足。決して挫けず蛮勇を奮う気高き王女とは言えども、彼女はやはりまだ十二歳の少女なのだ。
 捨てたと豪語するその名を胸中で叫ぶぐらい、イリオーデは今とても、緊張していた。

(ああ……なんと小さくか弱い御身体なのか。こんなにも小さな貴女様が、世の為人の為と日々身を粉にしているなど……我が主、我が王女殿下は最も素晴らしい御方なのだと誇らしく思うと同時に、私は……不安で、仕方ないのです)

 口元をぎゅっと真一文字に結び、イリオーデはアミレスを見つめていた。

(貴女様が背負うものは、あまりにもその小さな御身体に有り余るものばかりです。いつかその重責に押し潰されてしまわないかと、私は愚かにも不安を覚えてしまいます。その不安を解消するのが、我々臣下の役目と心得ているにも関わらず……)

 そうこうしているうちにもハイラがアミレスのドレスを手に部屋を出る。イリオーデはその後ろに続き、アミレスを起こさないようにゆっくりと歩いて行った。暫し歩いてアミレスの寝室に着くと、イリオーデはゆっくりと寝台《ベッド》にアミレスを寝かせる。
 そして彼等彼女等は少し離れた所で一息ついた。その時、カイルが何やらサベイランスちゃんをコソコソといじっていて。

「何をやっているのじゃ、お前」

 そんなカイルをナトラがじとーっと見上げる。

「え? あぁ、マクベスタの奴にこの事教えてやろうかと思って。ほら、アイツ今日は騎士団の訓練に参加してるとかでいないから」
「そんな事まで可能なのか……アミレスも言うておったが、お前は本当に訳が分からんのじゃ」
「ははっ、そりゃどーも。竜ともあろう存在にそう言って貰えたならチート冥利につきるわ」

 カイルは軽口を叩いてへらへらと笑い、鼻歌を歌いながらサベイランスちゃんの表面を指先で叩いてゆく。騎士団の訓練場の映像がサベイランスちゃんの表面に投影され、そこにはマクベスタの姿もあった。

「お、丁度木陰で休んでる。これはぁ……召喚形式にした方がやりやすいかね。とりまやってみっかー」

 ボソボソと独り言を呟きながらカイルはサベイランスちゃんを操作し、やがて当然のように空間魔法を使用。特定の場にあるものを目の前に呼び寄せた形で転移させたのだ。
 その為、つい先程まで雪の降る訓練場の木陰て休んでいた筈のマクベスタは、突如として東宮の一室に転移させられたのである。
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