だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「───え?」

 マクベスタは呆然としていた。そりゃそうだ、何せ瞬く間に全く別の場所に自分が立っていたのだから。「ここはどこなんだ」「え、アミレスの寝室……っ!?」と顔を青くして慌てふためくマクベスタに、カイルが「落ち着け、訳は今から話すから」と説明し、マクベスタはなんとか落ち着きを取り戻した。

 まぁ代わりに、「アミレスは大丈夫なのか……?」と不安をその顔に滲ませたが。そしてそれを見たカイルが密かに、(やっぱ顔が良いなこいつ、顔面国宝認定確実だろ……)とオタクらしい感想を抱いていた。やはりカイルは顔のいい男に弱いようだ。

「あ、皆ここにいたんだ」

 するとそこで、ガチャ、と扉を開けて部屋に入って来たのはシュヴァルツだった。声はいつも通り明るいものの、その表情には翳りが窺える。
 シュヴァルツは部屋に入って真っ先にアミレスの元に足を向けた。寝台《ベッド》のすぐ側に立ったシュヴァルツは、そっとアミレスの寝顔に触れて、

「どうやったらアイツから君の心を奪えるんだ」

 真剣な面持ちを作り、ボソリと呟いた。彼は思う……何故あんなにも非情な男にアミレスの心がずっと向けられているのかと。どうすれば、フリードルに向けられたアミレスの愛情《こころ》を奪い去る事が出来るのかと……。
 ほんの少しの間、彼はじっとアミレスの寝顔を優しく見つめていた。しかしそれも束の間。シュヴァルツは意味深な笑みを浮かべ、それをハイラ達に向ける。
 そしてこう口を切ったのだ──、

「おねぇちゃんの望みは、絶対に叶わないみたいだよ」

 誰もがその発言への反応を探る中、シュヴァルツは誰の反応も待たず淡々と言紡いでゆく。

「あのフリードルとか言う男は救いようのない男だ。アイツのおねぇちゃんに対する殺意は本物。必要があれば──……いや、必要でなくなればいつでも殺そうと思ってただろうね、アレは」

 人としても兄としても家族としても信じられないよねー。とシュヴァルツが肩を竦めると、それには思い当たる節のあるカイルとハイラが苦い顔を作った。
 それぞれ、ゲームで見たりアミレスを嫌うフリードル自身を見たりと覚えがあったからである。

「ああ後ね、なんでおねぇちゃんが泣いていたのかも聞いたんだけど。聞きたい?」
「あの男から聞き出したのか、シュヴァルツ!」

 流石は我がライバル、やるではないか。とナトラはシュヴァルツの側まで駆け寄り、その背中をバシバシと叩く。シュヴァルツはこれに「だからこれ痛いんだって」と困り顔で反応し、

「勿論ちゃんと聞き出したよぉ。お陰様でホントに胸糞悪すぎて仕方ないや」

 シュヴァルツは苛立ちを隠そうともしない作り笑いを雑に貼り付けた。程なくして彼の顔から笑顔が消え、シュヴァルツは一言一句違えずにフリードルの言葉を口にした。
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