だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……つかぬ事をお伺いしますが、シャンパージュ伯爵はかなりお食べになられる方だったりしますか?」

 この量の料理を見て足りないと言う人なのです、きっとそれしかありません。そんな得体の知れない確信から私は彼に尋ねた。

「いや、特によく食べると言う訳では。私としては人並みだと思うが……ああでも、食べる事はとても好きだ。しかし何故急にそのような事を?」
「いえ……ふと気になっただけです」

 自覚が無いパターンですね、これは。彼は恐らく自分がかなりの大食いであると言う自覚をお持ちでない。それどころか一般的だと勘違いしてらっしゃる。
 これはもう駄目ですね。このフルーツサンドが一般的に多い部類に入ると気づいていただけなさそうです。

 ……何としてでも、食べ切るしかないですね。

 そう、私は決死の覚悟を決めました。姫様の侍女たる者いかなる事にも恐れず挑戦を──……ああ、そうでした。私はもう姫様の侍女ではないのでした。
 今の私は『姫様の専属侍女のハイラ』ではなく、『ララルス侯爵家のマリエル・シュー・ララルス』なのです。

 ハッとその事に気づき、私は少し物寂しい気持ちに落ち込みました。これはきっと暫く引きずり続ける事でしょう。それ程に、私にとって姫様の侍女であった事は大事な事でしたので。

 胸焼けする程に甘い物を食べたのは初めてです。そして胃がはち切れそうですね。爽やかで甘すぎないサーモニティーがあんなにも救いとなるなんて、思いもよりませんでした。
 もう暫くは甘い物を食べたくないと思える程頑張って全て平らげ、私は小刻みに震える手でティーカップを摘み、もう何杯目かも分からないサーモニティーで口内を爽やかにする。
 きっとシャンパージュ伯爵は、私の事を異様にサーモニティーを飲む女と思っているでしょう。飲まないとやってられないのです。
 そんな重い朝食を終え、私達はようやく今日より決行する爵位簒奪計画について最後の確認と話し合いを始めました。

 ……本当ならばこの場にイリオーデ卿もいる筈でしたが、彼には姫様のお傍にいていただかなくてはならなかったので。それに、この作戦におけるイリオーデ卿の役目は決行後にあるので今はまだ問題は無いのです。

「予定通りだとこの後ララルス邸に共に向かい、ララルス嬢があの男の顔面を一発殴る。その後城に向かい、堂々とララルス侯爵の悪事を告発し、一度ララルス侯爵家を潰す──……うむ、改めて考えると本当に恐ろしい話だ。わざわざ家門を潰してから再建しようとは」

 まあ、私が考案した作戦だが。とシャンパージュ伯爵はお茶目に笑う。
 そうこの計画はララルス侯爵家の権威を一度完全に地に落とす事になる。即戦力……すぐに姫様の力になれる権力が必要なのに、何故そのような回り道をと思われるだろう。しかし、これは必要な事なのです。
 まず第一に、現在のララルス侯爵家のような穢れきった権力で姫様を守る事など不可能。そもそも我々のプライドがそれを許しませんでした。
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