だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 あの屑が私の捜索を始めてすぐ、一週間程が経った頃。カラスの一人が早々に皇宮にまでやって来て私に指示を仰いで来たのです。『マリエル・シュー・ララルスの捜索が始まっていますが、どうしますか?』と……この時既に私はハイラになっておりましたので、勿論私は見つからなかったと報告するよう言いつけました。

 その時ケイリオル卿にも頼んだのです。私が東宮で働いている事──私《ハイラ》が、マリエル・シュー・ララルスである事は絶対に外部に漏らさないで欲しいと。
 情報通のケイリオル卿と私側についてくれていたカラスの協力無くして、私の失踪は叶わなかった事でしょう。

 暫くしてあの屑の寝室に辿り着くと、中からフルカが懸命にあの男を起こそうとする様子が聞こえて来て。かれこれ三十分近くずっとこうしていたのでしょうか……相変わらず苦労しているのですね、彼は。

「失礼します」

 一切の躊躇いもなく扉を開けて、部屋に足を踏み入れる。そこは様々な匂いが混ざり溶け合って、思わず吐き気を覚える空間。部屋に入った瞬間、シャンパージュ伯爵でさえも「うっ……」と少し口元を押さえてしまう程のものでした。

 大きな寝台《ベッド》の上にはかろうじて布団で下半身を覆っているだけの、半裸の豚……ではなく下品な男と、その胸に抱かれる豊満な体の美女。どこか、母に似た雰囲気をも感じさせる。
 その寝台《ベッド》の周りには乱雑に脱ぎ捨てられた服が転がっています。必死にあの屑を説得していたらしいフルカが、部屋に押し入った私達の姿を見て顔を青ざめさせた。
 そして、例の屑はというと。

「──マリエル? その顔、その声はマリエルではないか! まだ生きておったとは……! また会えて嬉しいぞ、マリエル!!」

 勢い良く起き上がり、瞳を輝かせて汚い声で私の名を連呼する。その後、舐め回すように私の全身をじっくりと見定めては満足気に下品な笑みを浮かべ、

「随分と大きくなったではないか。まるでお前の母そっくり──……」

 先程まで抱き締めていた美女を雑に振り払い、全裸で堂々と汚物を晒しつつ私の方へと歩を進めてきましたので……私は鳥肌が立った右手にドレスの袖に隠していた短剣《ナイフ》を出し、屑の足元へと思い切り投擲しました。
 それは鋭く床に突き刺さり、かなりの牽制……威嚇となった事でしょう。
 たじろぐ屑に向け、私は嫌悪から荒くなってしまいそうな口調と表情を必死に正して口を切る。
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