だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「あたしだって好きであんな豚貴族の相手してる訳じゃないわよ。愛人になったらたんまりお金をくれるって言うから仕方なくやってるだけで……」

 あの屑の事ですから、どうせろくでもない方法を用いているのではと思いましたが、案の定。最早何の捻りもなくてつまらないですね。
 あのような屑が正攻法で彼女のような美女に相手される訳が無いのですから。恐らくこれまでも似たような手法で、どこか母に似た雰囲気の女性達を食い物にしていたのでしょう。本当に腹立たしい限りです。

 ……本当に、あの屑は異様なくらい母に執着してましたから。心を病み、体も衰弱していく中で母はそれをあの屑にだけは悟らせまいとし、結果衰弱死しました。『あんな男に助けられてまで生きたいと思わない』……そう、私は母の口から何度も聞きました。

 だから母は私に一人でも生きていけるようにと様々な事を教えてくれたのです。『貴女を一人残す事になりそうで、ごめんなさい、マリエル』と何度も何度も母に謝られました。
 いずれそうなる事を、私だけは分かっていたのです。だから私は荷物を纏め、母の葬式直後に家を出ました。あの屑が母の葬式に気を取られているうちに、私はこの腐った家から逃げ出したのです。

「職は無いのですか?」
「あったらこんな所にいないわよ」
「……それもそうですね。時に、侍女業に興味はありますか?」
「え?」

 きょとんとする美女。突然侍女業に勧誘されたら誰だってこう反応するでしょうね。

「詳しくは話せませんが、近々あの屑は社会的にも物理的にも死にますので貴女の金ヅルはいなくなります。職が無いのでしょう、一応貴女はあの屑の被害者なので、当家で雇ってもいいかと思ったのです」
「え、死ぬ? 待ってどういう事?」
「相も変わらずここの使用人はどれもこれもどうしようもない者達でしたので、一斉解雇も考えております。なので職場に馴染めず早期辞職……といった心配は無用ですよ」
「ちょっ、待って待って話見えないんだけど!?」
「当家が嫌でしたら……シャンパー商会に頼んでみましょう。よろしいですか、シャンパージュ伯爵」
「職業の斡旋なら我が商会ではお手の物だ、任せてくれたまえ」
「ねぇあたしの声聞こえてます?!?!」

 美女がフゥーッ、フゥーッ、と息を荒くして叫ぶ。それに私とシャンパージュ伯爵は驚き、目を丸くしました。
 勝手に話を進めたから怒っているのでしょうか。しかし、これは彼女にとってもまたとない機会かと心得ます……何が不満なのでしょうか。
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