だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

156.夢の終わりに餞を

「ひっく……ぅ……っ!」

 誰かが泣いている。暗い世界の中で、ぽつんと一人、六歳ぐらいの少女が泣いている。
 ──どうして泣いてるの。
 私の口がゆっくりと動いた。するとその女の子は波打つ銀髪を揺らして振り向いた。その泣き顔は悲痛に染まっていて。

「にい、さまが…………ぅぐっ、……わたしを、あいっ……して、くれない……って、いった、から……っ」

 一歩ずつ少女に近づき、私は彼女を抱き締めた。
 体を震わせ涙を流す少女を優しく包み込み、語りかける。
 ──ごめんね。私の所為で、あんな事まで言われちゃって……本当にごめんね、アミレス。
 彼女の涙は私の所為だ。こんなにも涙する程にあの二人からの愛を諦められないのに、私が無理やり諦めようとしたから。
 あの二人への反抗心で、余計な事を沢山言ったから。だからアミレスがこんなにも苦しんでいるのだ。

「わたしの、なにがだめなのぉ……っ、どこをなお……して、どう、がんっ……ばれば……おとう、さまと……にいさま、は……わたしを、あいして……くれる、のぉ……っ」

 ──私達がどれだけ頑張っても、あの人達は私達を愛してくれない。フリードルのあの言葉で、分かった事でしょう?

「でもっ、でも……にいさまだって、おおきくなったら……だれかを、すきに……なるんだよ。それなら、もしかしたら、わたしを……っ、あいしてくれるかも、しれない……」

 ──フリードルが誰かを好きになったら、私達は要らなくなっちゃうよ。フリードルに不要とされて、邪魔な道具を捨てるように壊されちゃうの。だから、フリードルの事は諦めよう? 皇帝の事も諦めようよ、アミレス。

「……っ! でも、そうだとしても……わたし、は……っ、にいさまと、おとうさまには……ずっと、げんきで……いてほしいよ…………しんじゃ、やだぁ……!」

 まるで私が彼女になった頃のような小さな体で、アミレスはめいいっぱい訴えかけてくる。
 どれだけ蔑ろにされ疎まれても、それでもずっと愛情を求め続けたアミレスがこんな事で諦められる訳が無かった。死に際に思う事でさえ『愛されたかった』なこの少女が、その人格の根幹たる愛情欲求を捨てられる訳が無かった。
 それなのに、私は……それを捨ててくれと、こんなにも小さな少女に強要して来たのだ。

 ……でも。それでも、私は絶対に幸せにならないといけないんだ。
 何故かは分からないけれど、私は、私だけは幸せにならないといけない。そんな衝動に駆られる。アミレスの想いを見殺しにするとかそういう話ではなく、まるで今ふと思い出したかのように、そんな絶対的な指標が私の中に現れたのだ。

 どうして幸せになる事にこれまでこだわって来たのか、自分でもよく分からないが……もしかするとこれが理由なのかもしれない。
 全く思い出せない、『私』の事。どこの誰なのか、顔は、歳は、夢は…………そのどれか一つすらも、私は思い出せなかった。
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