だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 他の事──学校で習うような事とかゲームや漫画の事はめちゃくちゃ覚えてるのに、どうしてか『私』の事だけは何一つ覚えていない。それなのに、『私』の根底に関わりそうなこの指標だけが突然私の中に現れたなんて。
 何よ、『私だけは絶対に幸せにならないといけない』って……どんな人生送ってたらそんな事考えつくの? そんな意味不明な指標の所為で、私は更にアミレスの望みを踏み躙らなければならなくなったのだ。

 私の幸せの為には、アミレスの渇愛を無視しなければならない。
 アミレスの幸せの為には、私の指標を無視しなければならない。
 真逆の望みを持ってしまったが故の、最悪の衝突だ。私達二人の望みが一致する事は無い。何せ、片や叶う筈のないもの。片や難易度もゴールも分からないもの……そんな望みが一致して叶う訳が無かったのだ。

 何が二人で一緒に幸せになろう、だ。そんな事ハナから不可能じゃないか。
 アミレスの想う幸せには皇帝とフリードルの愛が必要で、私の思う幸せには皇帝とフリードルの存在は不要。最初からこんな風に矛盾してるのに、どうしてそれから目を逸らしていたんだ私は。

 何を無茶な理想論ばかり語ってたのよ、馬鹿じゃないの?
 てかさ、数年後には私の事を殺そうとする人達を、どうやって愛せって言うのよ。要らないわよあんな人達、押し付けられても速攻でクーリングオフするわ。

 愛を求めても求めなくても皇帝とフリードルは殺しに来そうな感じだし……どっちにしろ、あの二人に命を脅かされる事に変わりないのよ、私達は。
 それなのに、それを知っても変わらず愛を求めるとか……はっきり言って正気の沙汰じゃない。

 ──ねぇ、アミレス。本当の本当にあの人達じゃなきゃ駄目なの?
 アミレスと向かい合って座り、私は今一度問いかける。すると、アミレスは目元を擦りながら小さく首を縦に振った。

「……うん。だって、わたしの……たったふたりだけの、かぞく……だから」

 ──家族だったら誰でもいいの? それなら頑張って親族捜すけど……。

「だめ、おとうさまと、にいさまじゃなきゃ……やだ」

 今度は首を横に振る。頑固だなぁ、本当に。あの親と兄のどこがいいのか、私には本当に分からない。
 ──あの二人に愛してもらわないと、アミレスは幸せになれないのね?

「うん。あなたは……ちがうの?」

 質問返しをされるとは思わなかった。しかし特段困る事は無い。何せ私の答えは決まっているから。
 ──ええそうよ。私は……幸せが何かは分からないけれど、少なくとも死にたくない。愛する人に利用されて棄てられるなんて結末は迎えたくない。だから、貴女のそれとは違うわ。

 六年前に見た、成長前の小さなアミレスの綺麗な瞳を真っ直ぐ見つめて、私は口を動かす。
 愛というものも、幸福というものも、この身この記憶に全く覚えがないから詳しくは分からないが……多分、死なないでハッピーエンドを迎える事が私の幸福となるだろう。
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