だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 そんな風に露骨にイライラしているシュヴァルツの様子を見て、ナトラは思う。

(相変わらずめっちゃ不機嫌じゃのう、こやつ。ま、我には関係無いが)

 ここ数日ずっとシュヴァルツは機嫌がすこぶる悪い。この日は特に酷かった。
 まさに触らぬ神に祟りなし。ナトラはくるりと踵を返してシュヴァルツから距離をとり、掃除に勤しむ。なお、この後も暫くシュヴァルツの虫の居所は悪いままであった。

「あ、メイシアちゃん。荷物重そうだね、俺持つよ」
「……カイル王子。わたしは別に、これぐらい平気です」
「まぁまぁそう言わずに」
「あっ! 勝手に……!!」

 たまたま東宮内の廊下で鉢合わせたカイルとメイシア。メイシアが前が見えないくらいの大荷物を抱えていた為、カイルがひょいっとそれを取って代わりに持った。

 それにメイシアは不満げな表情となる。噂に聞く限り、やたらとアミレスとの距離感が近すぎるこの男をメイシアもまた警戒しているのだ。
 そもそも、メイシアは大抵の男を警戒している。もしアミレスに良からぬ事をしたら絶対火炙りにしてやろう。と決めている程に、アミレスの周りの男達全員を密かに警戒しているのだ。

「これ、どこに運ぶんだ?」
「二階の正面から見て右側の奥から三番目の部屋です」
「滅茶苦茶遠いじゃん。益々俺が持って正解だったわー」

 二人は並んで歩き出す。歳も違えば背丈も違う二人は歩幅だって勿論違っていた。しかし、カイルがちゃっかりメイシアに歩幅を合わせている為、二人は並んで歩く事が出来ていた。

(……息を吸うように行われた自然な気遣い。これは間違いなく女タラシだわ。お母さんが言ってたもん、こういう男の人は沢山の女の人を泣かせるって。要注意人物よ、この人は。万が一にもアミレス様に言い寄ったりしないよう、ハイラさんがいない今、わたしが目を光らせないと……!!)

 メイシアは微妙に色の違う眼で横目にチラリとカイルを見上げる。このカイルと言う男、なまじ顔が良く、才能に溢れそこそこ性格も良い男だからこそ厄介なのである。
 以前のアルベルトの被害者女性よろしく、並大抵の女ならあっさり落ちてもおかしくないスペックをしているのだ。何せカイルは乙女ゲームでメインヒーロー枠を務められる程の元・超ハイスペックスパダリイケメンなのだから。

 メイシアは当然、アミレスとカイルが転生者仲間で悪友のような間柄である事を知らない。故に、カイルの事は、アミレスの近くに突然現れた無駄に優良物件な要注意人物……と認識しているのだ。
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