だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「貴方はどうして……そんなにも私によくしてくれるの? 初めて会った時からずっと疑問だったの。貴方の忠誠心が……よく分からなくて」
「それは…………」

 イリオーデの表情が固まる。その瞳は、迷いのようなものに揺れていた。

(話しても良いものなのだろうか。王女殿下がまだお生まれになられたばかりの頃、お傍にいたのだと。だが……それを話して、王女殿下のお傍を離れてしまった私に王女殿下が失望でもしてしまったら。私は、それに耐えられるのだろうか)

 そんな事を考えてしまう弱い己の心に、イリオーデはぐっ、と下唇を噛む。己の死よりも、アミレスを失う事やアミレスに失望される事の方が、イリオーデにとっては強大な恐怖に他ならないのだ。
 少しして、イリオーデはおそるおそる口を開いた。

「先程も名乗りました通り、私はランディグランジュの人間なのです。その関係で、私は……昔、王女殿下がお生まれになられたばかりの頃。貴女様が二度目の誕生日を迎えられる少し前まで、ずっと──……お傍に仕えていたのです」

 怖い。どんな反応をされるのか分からない。失望されたらどうしよう、嫌われてしまえばどうしよう。もし、これが切っ掛けで彼女の記憶が戻ってしまったら──。
 そんな恐怖や不安が、イリオーデの心に巣食う。だがそれすらも……アミレスはたった一言で払いのけてしまうのだ。

「え、そうなの? えっとー、じゃあ、お久しぶり……なのかな?」
(やっば、そんなの初耳なんだけど!? アミレスさん何で教えてくれなかったの! 相手だけ覚えててこっちだけ覚えてないとかめちゃくちゃ失礼なやつ!!)

 内心では非常に焦りつつも、アミレスは軽い口調で久しぶりと口にした。その言葉にイリオーデは驚愕し、感激する。

(お久しぶり──……だなんて。誓いを違えた私を、貴女様は笑ってお許し下さるのですね。ああ、本当に……貴女様はどれだけ慈悲深く寛大な御心をお持ちであらせられるのですか。私の事を知っても尚、追求も叱責も無く、ただ笑って受け入れて下さるなんて)

 それは盛大な勘違いであった。アミレスは何も気づいてなければ思い出してもいない。何なら、内心では失礼かましちゃったわよねこれ?! と大焦りである。

(あの時の誓いを、私は違えてしまった。理由は何であれ私が王女殿下の騎士である事を放棄した事実に変わりない……だからこそ、私は、今度こそ誓いたいのだ。二度と違える事の無い誓いを──貴女様に)

 決意を帯びた強い瞳が、焦りを浮かべるアミレスの顔を映す。その視線に気づいたアミレスが困惑しつつもふにゃりとはにかむと、イリオーデもまた、珍しくその美しい顔に微笑みを浮かべた。
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