だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(んなっ!? 顔ッ、良ッ!!)
(今度こそ、愛らしくお美しい王女殿下をお守りするんだ。この御方の傍で、この御方の騎士として)

 温度差が酷い。イリオーデが至極真面目な事を考えているにも関わらず、アミレスはイリオーデの微笑みの破壊力に目を細めていた。
 そうこうしているうちに厨房に辿り着き、アミレスを木の椅子に座らせてから、イリオーデは厨房を物色し始めた。何か食べ物が無いかと、戸棚や氷室を次々漁る。
 しかしタイミングの悪い事に、丁度今、厨房担当として派遣されてきた諜報部隊《カラス》が食材の買い出しに出たばかりで、ほとんど何も無かった。
 シルフ達用に作られた軽食を最後に、作り置きの類は無くなった。体のいい在庫処理のようなものだ。その為、現在この厨房には限られた食材が少しずつしか残っていないのだ。

「必要とあらば、城の厨房より幾らか拝借して来ます」
「そこまでしなくてもいいわよ。でも……そうね、今あるのはリンゴとかの果物がいくつかと小さめのパンかぁ……」
「空腹を満たせる程の物はありませんね、やはり調達して来るしか」
「大丈夫よ。そもそも、貴方がここでいなくなったら私は身動きが取れなくなっちゃうわ」
「っ! 確かに仰る通りにございます。度重なる浅慮な発言、恥じ入る思いです」

 ハッとなったイリオーデが大袈裟に背を曲げる中、アミレスは何かいい案は無いかと頭を悩ませる。
 アミレスが何か考えているのであれば、とイリオーデはその場で直立不動。彼女の指示を待つ事にした。

「ねぇ、何か調味料の類はあるかしら?」
「調味料ですか。少し探してみます」

 そう言ったイリオーデが今一度厨房を荒らす事、数分。机の上には二十個近い調味料の小袋が綺麗に並べられた。それらには別の布が縫い付けられており、そこには調味料の名前も書かれていた。

「何かお目当ての調味料があるのでしょうか」
「うん……あっ、そこのシナミーっていう袋、ちょっと取ってくれる?」
「畏まりました」

 アミレスの指示通りイリオーデが袋を手に持ち、その口を開けてアミレスの顔に近づける。手で軽く口の上辺りを仰いでその匂いを嗅ぎ、アミレスの表情は明るくなる。

(よし、やっぱりこれだわ……! なーんか名前が似てるからもしかしたらとは思ったけど、これシナモンだわ! 多分!!)

 勘で選んだ調味料の匂いを嗅ぎ、それが己の記憶にあるシナモンの匂いと何となく合致した為、アミレスは内心でガッツポーズを作った。
 ここまで喜んでいるが、確信した訳では無い。

「よし。決めたわよ、イリオーデ」
「決めた……とは?」

 アミレスは口元に人差し指を立て、いたずらっ子のように笑う。

「今から二人で、いけない事──……しちゃいましょう?」

 イリオーデを、共犯者とする為に。
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