だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

160.夢の終わりに餞を5

 そして、病み上がりの王女と王女の為なら何でもする騎士によるいけない事は始まった。
 まず最初にリンゴの皮を剥き、その芯を取って、三日月のような形に切る。勿論これはイリオーデが行った。
 次に鉄製の平たい鍋にてバターを熱し、そこに先程切ったリンゴを投入。暫くそのまま焼き、いい具合に焼けて来たらシナミーをかけた。

 こちらはイリオーデが隣で「危険です!」「御身に何かあれば……!」と慌てる中、アミレスが「これぐらい平気よ、きっといけるわ!」と根拠のない自信から意気揚々と行った。
 次に小さめのパンの真ん中を、横に切って二つに分ける。分けたうちの片方だけ表面をバターで少しだけ焼いて、その上に焼いたリンゴを乗せる。最後にそれをサンドするようにもう片方のパンを置けば、完成だ。
 それを二皿、それぞれに二つずつ置いて全工程は終了した。

「じゃじゃーんっ! こちら、お手軽焼きリンゴサンド〜シナミーを添えて〜になります!」
「流石です王女殿下、なんと神々しい品なのでしょうか……っ!」

 むふーっ、と満足気に胸を張るアミレス。そんな彼女を盲目的に賞賛し、パチパチパチパチと高速で何度も拍手するイリオーデ。
 アミレスの中でのいけない事、それはこの通り……料理だったのだ。
 大抵の事はやらせて貰えたアミレスだったが、料理だけはハイラが絶対にやらせてくれなかったのだ。やれ手を切っては危ないだのやれ火傷するかもしれないだの、ハイラは過保護過ぎるあまり料理だけはやらせない様にしていた。

 普段から剣を扱い、火の精霊と特訓している事には何も言わないのにだ。全く不思議な話である。
 その為、アミレスは自分が料理出来るかどうかすらも知らないまま、ただ『料理はしちゃ駄目な事』という認識で生きて来た。故に──いけない事、なんて言い方になってしまったのだ。

(いや〜、正直料理出来るかどうか不安だったけど、意外と出来るものね! ただ焼いただけだけど!)

 それにイリオーデも共犯に出来たし! とアミレスは大変満足していた。後でハイラに怒られる時、これなら少しは説教も軽く済むだろう。なんて企んでいるのだ。

「よし、それじゃあイリオーデも一緒に食べましょう?」
「っ!? ですがそれでは王女殿下の食事が……」
「久しぶりの食事なのに、一人で寂しく食べるなんて嫌よ。貴方も一緒に食べて」

 頭がまだ上手く働いてないのか、いつもよりもずっと幼さを表に出すアミレス。そんな姿を見て、誰が断る事など出来ようか。

「……ご相伴にあずかります、王女殿下」
(ああっ、まさかまたもや王女殿下と食事を共に出来る日が来るなんて……!)

 おずおずとイリオーデは着席し、喜びが口から出るのを必死に堪えていたのだが……すぐ隣に座るアミレスが両手で頬杖をつき、上目遣いでニッコリと笑う。
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