だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「王女殿下は昏睡状態から目覚められたばかりで空腹に耐えられず、近くに誰もいなかったら事から御自身の足でこちらの厨房を目指されたのだ。王女殿下が寝室から突然いなくなられた事に関しては、常に人員を配置しておかなかった我々全員の失態である」

 そして、と彼は更に続ける。

「病み上がりの王女殿下にそう何人も寄りかかっては、負担になられる事間違いない。王女殿下の騎士として、王女殿下の負担になられる事を看過する訳にはいかない」

 それを聞き、頷けるものがあったからかナトラとシュヴァルツも大人しくなった。メイシアもまた、ハッとなり慌ててアミレスから離れる。
 メイシアが「ごめんなさい、アミレス様……」と謝ると、アミレスは特に気にしていない様子で「大丈夫よこれぐらい」と笑った。
 その後、三週間程眠っていた事やその間の事をメイシア達から聞き、アミレスは「まさかそんなにも眠ってたなんて」とたまげていた。

「……それにしてもハイラはどこにいるのかしら。全然姿を見ないのだけど」

 アミレスがボソリと呟くと、メイシアとシュヴァルツとナトラの顔が途端に固いものとなった。三人共困ったように目を明後日の方向に逸らしている。
 その事にアミレスは眉を寄せて首を傾げ、

(何なのかしら、この反応……)

 ちらりとイリオーデの方を見た。するとイリオーデはおもむろに口を開いて。

「結論から申し上げますと、ハイラはいません。ですが、彼女は健在です。事が整い次第、いつか必ず……王女殿下の御前に馳せ参じるでしょう」
「え、ど……どういう事? いないって……何?」

 アミレスは当然困惑した。その困惑に答えをと、イリオーデは一つ一つ語ってゆく。

「彼女にはある使命がありました。その為に貴女様のお傍を離れる必要があり、彼女はそれを酷く悲しんでおりました。その使命が為、二週間程前から彼女は東宮を離れているのです」

 イリオーデは眉一つ動かさずに淡々と述べる。それを聞いたアミレスは呆然とし、戸惑いと寂寥に寒色の瞳を揺らした。

「じゃあ、もうハイラは私の侍女じゃないって事?」
「そうなります。兼業は難しい、と苦々しく語っていたので」
「どうして、私が眠っている間に勝手にそんな事したの?」
「……時期的にも、今しか無かったのです」
「私はもう、二度とハイラに会えないの?」
「それは貴女様次第でございます。身勝手な申し出とは心得ますが、どうか我が言葉を聞き届けて下さいますか、王女殿下」

 一問一答が続く中、イリオーデはその場で片膝をついて悲しみを滲ませるアミレスの瞳を見上げた。
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