だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 あまりにも愚直なその視線に、アミレスは「聞いてから、考える」と呟いた。イリオーデはそれで充分だとばかりに深く頷き、

「彼女が次に貴女様の御前にて平伏する際、一度だけで構いませんので……どうか彼女を──もう一度、『ハイラ』と呼んでやって下さいませんか」

 ある女性の夢の為にと懇願した。
 その名その人生が彼女にとっての夢そのものであると、イリオーデは以前少しだけ耳にした事があったから。それを知るからこそ、彼は盟友とも呼ぶべき彼女の為に頭を下げたのだ。

(他の誰でもない貴女様でなければならないのです。他の誰でもない、彼女に夢を与えた貴女様でなければ)

 他の誰かが彼女をハイラと呼ぼうと、それはきっと何の意味も成さない事だろう。その名を呼ぶのはアミレスでなければならないのだ。

「……まだ事情はよく分からないけど、ハイラはきっと、私の所に戻って来てくれるのよね」
「はい。それだけは断言出来ます」
「なら、まあ…………ハイラへの文句はその時に言う事にするわ」

 勝手にいなくなった事とかね。とアミレスは少し腑に落ちない様子で頬を膨らませた。
 これにより、イリオーデの申し出はほぼ受け入れられたようなもの。それにイリオーデがほっと肩を撫で下ろしたのも束の間、

「このタイミングで口挟むのもどうかと思うけどぉ……イリオーデ、お前もしかして最初からハイラがいなくなった理由は知ってたの?」

 シュヴァルツが眉尻を吊り上げてイリオーデに問い詰めると、イリオーデは真顔で「ああそうだが」と答えた。
 それがシュヴァルツの顰蹙を買う。

「思い返せば、確かに最初から何か訳知り然としてたなお前! マジでふざけんなよ、あの時割と真面目に悩んでたぼく達に謝れ!!」
「済まなかった。彼女から何も話すなと再三言われていたのでな」
「それで? ハイラは今どこで何してんのさ」
「それはいずれ分かる事だ」
「はぁっ!?」

 暫くよく関わっていたからか、それなりにハイラの事も気に入っていたらしいシュヴァルツ。そんな彼女が突然消えたのだから、彼とて頭の片隅で少しは心配していたのだ。
 しかしここでイリオーデが事情を把握していると分かってしまった。それにより、ここ数週間で彼の中に溜まりに溜まったストレスや鬱憤が暴れ始めてしまった。

 イリオーデに殴り掛かりすんでのところでそれを躱される。帝国の剣たるランディグランジュの神童の名は、伊達では無い。
 シュヴァルツが制約等の影響もあり相当な弱体化を受けているとは言えど、純然たる悪魔の初撃を躱す事が出来る人間など、そうそういない事だろう。
 頬に血管を浮かべて更に暴れようとしたシュヴァルツをアミレスが必死に宥め、この場は何とか落ち着いた。
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