だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 捻られたように痛む胃に喝を入れ、俺は一目散に厨房を目指した。そこで協力者の料理人からワインを貰い、俺は自室に寄って用意していた毒をワインに仕込んだ。

 父はワインが好きだが、同時に潔癖症でもある。その為、信頼の置ける懇意の業者のワインしか飲まない。裏を返せば、信頼の置ける業者のワインだけは警戒せず普通に飲む。
 そして、ワイングラスが自分が管理している物しか使わない。なので毒はワインに仕込んだ。これで確実に毒を飲ませられるだろう。

 俺は弱い。普通のやり方では父を殺めるなんて真似は到底不可能だった。だから、毒を盛るしか方法が無かったんだ。
 緊張と恐怖で息が荒くなる。首筋を何滴もの汗が伝う。それでもやらなければならない。これが、俺の最初で最後の騎士道だから。

『父さん。さっきそこで執事からワインを預かったんだけど』

 扉を開けて父の部屋に入る。爆発しそうな心臓を必死に落ち着かせて、俺はぎこちない笑みを浮かべた。
 部屋の中に母の姿は無い。一人で長椅子《ソファ》に座る父の顔が随分と悲痛に歪んでいる事から、母が何らかのきっかけで飛び出した形だろうか。
 そう考えつつ歩いていると、ピチャリ、と何か液体を踏んだ。部屋が暗めだからかそれが何かまではわからなくて。

『一人になりたい。ワインだけ置いて出て行け』
『……はい』

 毒は無味無臭の強いものを用意した。だから恐らく父にも気付かれない筈だ。
 チラリと横目でワインを注いでいるのを見つつ、部屋を出ようとした所で俺は違和感に気づいた。変な、臭いがする。それにドアノブが、濡れて──。

『何、これ……血……!?』

 ドアノブを掴んだ手のひらに、びったりと誰かの血がついた。先程感じた臭いはこれだ。まだ乾ききらない誰かの血。どうしてそんなものがドアノブに!?
 まさか、と思い振り返ったその瞬間。

『うっ?! が、ぁああああああああッ!!!?』

 ガシャンッ! とワイングラスが地に落ちて割れたのを皮切りに、父が苦悶に喘ぎ始めた。どうやら無事に毒を摂取したらしい。父の顔色がどんどん青く、気味悪いものへと染まりゆく。
 その口から泡を吹き出しながら父は俺の方へと手を伸ばして、

『あ、アラ、ン……バルト、おま、え……っ!』

 血走った目で睨んで来た。……ああ、父はもう死ぬ。俺がやったんだ。
 ──これは俺にとって最初で最後の騎士道。何せ、今日から俺は、騎士ならざる悪人となるのだから。
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