だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 それを辿り、母の元を目指す。辿り着いた場所は父と母の寝室だった。扉を開け、『母さん!』と叫びながら寝台《ベッド》に横たわる母に駆け寄る。
 その腹部からとめどなく血を流し、服も寝台《ベッド》も随分と赤黒く染まっている。
 母は僅かに瞳を開いて、力無く唇を動かす。

『アラン……逃げ、て……この家、は……あなた達を……不幸に……』
『駄目だ、喋らないでくれ母さん! 今すぐ医者を呼んで──っ!?』

 医者を呼ぼうと立ち上がった俺の手を、母がなけなしの力で掴んで制止した。そして小さく顔を左右に振って、その瞳から涙を溢れさせた。

『わたしが、もっと、強ければ……あの人を止められたら、あなた達を、不幸にしなくて……済んだ、のに……ごめんなさい、アラン……わたしの、可愛い息子』
『嫌だ、嫌だ! 母さんまで失うなんて、そんな……! 悪いのは俺なんだ、俺が、俺が全部……っ!!』

 母の手を握り、必死に何度も呼びかけるも……それ以降反応が返ってくる事は無かった。母は出血多量で死んでしまったのだ。
 父を手にかけ、母をも見殺しにしてしまった。嗚呼、俺は何と最低な息子なんだ。

 また涙と嗚咽が溢れ出る。立て続けに両親を殺めた俺が何を被害者面をしているのか。そう頭では分かっているのに。
 まるで赤ん坊に戻ったかのように、感情の抑制が効かない。堰き止められていた全てが押し流されるかのように、ありとあらゆる感情が解き放たれて俺の制御下から離れてしまった。

 やっぱり俺は弱いんだ。無能で、平凡な……イリオーデのような天才には遠く及ばない凡人なんだ。
 やがて、母の遺体の傍で泣き叫ぶ俺の元に乳母がやって来た。乳母は俺の事を優しく抱き締めて、『よく頑張りましたね、アランバルト様。お疲れ様です……っ』と背中を摩ってくれた。

 母の腹部には見事な裂傷があった為、侍従達はこれが父によるものなのだとすぐに気づいたらしい。だからこれは、俺達の企てた爵位簒奪計画と同時に起きてしまった最悪の事件となった。
 ああ、でも…………きっと父とて本意では無かったんだと思う。怒りに任せて母を斬ってしまい、きっと深く後悔していた筈だ。だって、ワインを渡しに行った時の父は、とても辛そうな表情をしていたから。

 それを知るのは俺一人。尊敬していた父を殺め、父が母へと謝る機会すらも奪ったのも俺だ。
 ならば、これまでの父への感謝と懺悔を果たそう。誰よりも帝国の剣として──ランディグランジュ家の当主として高潔なる騎士であろうとした父を、俺は妻を殺害した男としてではなく騎士として天に旅立たせてやりたい。
 それが全ての不和の原因たる俺に出来るせめてもの償いだ。
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