だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

168.十三歳になりました。番外編

 二月十六日。この日が彼女の誕生日であり、同時に彼女の母親の命日である事を知るのは容易い事だった。

 確かにジスガランドは大陸の東にあり、フォーロイト帝国は西にある為その距離は凄まじい。それ故互いの情報など全く伝わらないのだ。だがしかし、僕は彼女の情報を手に入れた。
 それはとある魔法を使っての事。彼女がオリジナルで結界魔法を編み出していたのを思い出し、少し真似をして作った僕のオリジナルの魔法。

 名前をつけるなら……そうだね、影法師とでも呼ぼうか。ふふ、光の魔力しか持たない僕が影なんて名前の魔法を使う日が来るなんて思いもしなかったよ。
 これは目当ての何かの影を光で以て生み出し、それに魔力と多少の自我を与える事で使い魔のように使役する事の出来る魔法。
 僕はこれで鳥を創り出し、空の目としてフォーロイト帝国に向けて飛ばしていたのだ。それで簡単に彼女の誕生日の情報を手に入れた。

 人の口に戸は立てられないからね。国がどれだけそれを隠蔽しようとしていても、人々は不幸や事件程忘れないものだ。王女殿下の誕生日と皇后陛下の命日なんて、そう簡単には忘れられないだろう。
 だからあっさりと。想定よりも早く情報を得る事に成功した。おかげさまで彼女と出会ってから初めての誕生日に、プレゼントを贈り損ねるなんて事にならずに済んだよ。

「うーん。果たして何を贈る事が最適だろうか……どうせあの聖人も何か贈るだろうしなぁ、あの男にだけは負けたくない。何か彼女に喜んで貰えそうな物を……」

 腕と足を組み、ちょっとした山の上に腰を据えて僕は頭を悩ませる。
 彼女は確か次で十三歳だったかな。十三とはとても意味のある数字。
 我らが主がまだ人の身であった時、この世の浄化にあたり用いた十三章の聖魔教典。それはジスガランドの十二箇所の聖堂にて一章ごとに厳重に保管されており、その第十三章が教座大聖堂に保管されている。

 リンデア教の信徒は十年に一度、その十二の聖堂と教座大聖堂を保管されている教典の順番に巡る、聖地巡礼を行う。そして、各聖堂にて主への感謝と祈りを捧げるのだ。
 そんな風習から我々にとって十三という数字は特別な意味を持つのである。

 ……とは言えども、彼女は別にリンデア教の信徒では無い。かと言って天空教の信徒という訳でもなさそうだった。
 どうやら彼女はどちらかというと無神論者のようだ。それは、こんな立場の僕からすればよく分からない事だけれど。
 そんな彼女に十三がどうのと言うつもりはない。
 これはあくまでも僕のちょっとしたこだわりだ。僕がただ個人的に、十三歳を迎える彼女に一等特別なプレゼントを贈りたいというだけなのである。

「あのー、ロアクリード様ー? 誰に何を贈るのかは知りませんが、とりあえずそこから降りてくれませんかね。それ以上そこに座られると後の洗濯が大変になるんですよー!」

 下の方から声が聞こえて来る。彼は僕の世話係のようなもの。昔から僕の傍にいる護衛兼側近だ。
 ……これでも一応、教皇の息子だからね。昔からそういう存在がいたんだ。
 まぁ、旅の間は定期的に手紙を出す事を条件に、彼に僕の代理を任せて一人で旅をしていたのだ。
 ジスガランドに帰って来てからは僕の身の回りの世話をも彼が行っている為、このままここに座り続ける事で服が汚れる事を気にしているようだ。

「ああごめんね、マアラ。つい考え事に耽ってしまったよ。確かにこのまま魔物の死骸の山に座ってたら臭いもついてしまいそうだ」
「分かってるなら早くその趣味悪い椅子から降りてくださいー!」
「はいはい、分かってるよ」

 軽い足取りで魔物の死骸の山から飛び降りる。これは、先程大群で押し寄せて来た魔物達を倒して出来上がった山である。
 ここはジスガランドの北部にある洞窟、通称魔窟。僕が昔から修行だなんだと父に放り込まれてきた忌まわしき洞窟であり、白の山脈と同等の魔物の出現率を誇る場所。
 皮肉にもこれ以上ない程に修行に最適な場所なので、ジスガランドに帰って来てからと言うもの、よくこうして潜っているのである。

「まったく…………深層の魔物を椅子にするのは貴方ぐらいですよ、ロアクリード様。何かまーた強くなってるし……」
「え、本当? 僕強くなってる?」

 服に着いた土や汚れを手で払っていると、マアラから嬉しい言葉が聞こえて来た。強くなったという事は、僕の目標である聖人に並ぶ事……それに近づいたようなものだからだ。

「何でちょっと嬉しそうなんですかねぇ……それと、一人称戻ってますよ」
「あっ。気を抜いたらつい、僕に戻ってしまうんだよね。でも良くない? ここには僕達しかいないのだから」
「そりゃあ、魔窟の深層まで五体満足で降りてこられる人間なんてそうそういませんからね。もしいたとしても、人の話に聞き耳立てる余裕なんてありませんよ」
「ならいいじゃないか」
「ロアクリード様って妙に適当なところありますよね」

 マアラの呆れた目が僕に向けられる。彼は几帳面すぎるんだよ。誰にも聞かれていないならいいじゃないか、別に。
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