だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

170.パートナーの座は誰の手に2

「シルフ様とエンヴィー様の事はひとまず置いておきましょう。今はアミレス様のパートナー選びの方が大事です」

 メイシアはマクベスタとイリオーデを交互に見て、またもや考え込む。
 彼女の掲げるパートナーの条件……それに合致する男が最早この二人しかいないからである。ならば、パートナーはこのどちらかより選ぶ事となる。

(ランディグランジュ侯爵の弟であるイリオーデさんと、オセロマイト王国第二王子のマクベスタ様……どちらもアミレス様のパートナーとしては申し分無いのだけど、悩みどころだわ)

 メイシアはイリオーデがランディグランジュ侯爵家の人間であると知っていた──……正確には、そんな気がしていたのだ。
 父であるホリミエラの仕事の見学をするようになってから、彼女は貴族達の名前を把握するようになった。そこで、イリオーデ・ドロシー・ランディグランジュの名を見た覚えがあったのだ。

 更にその髪色。ランディグランジュ家の人間は美しい青の髪を持つ場合が多く、その話をホリミエラより聞いた事があった為、メイシアはイリオーデと出会ってすぐにその正体に気がついたのだ。

 だが、本人が明かさぬのなら……とメイシアも特に言及して来なかった。ランディグランジュの神童が失踪した事になっている以上、何か訳ありなのだろう。そう齢十二程の少女が配慮したのである。
 少なくとも、イリオーデがアミレスに対して害意や悪意を抱く様子は全く無い。それどころか強く敬服しているようで、メイシアも密かに信頼を置いていたのだ。

(マクベスタ様をパートナーに据えると、歳が近い事もあって邪推されそうね。じゃあやっぱりイリオーデさんが最適なのかな)

 マクベスタをパートナーとする事で発生する不利益を考え、彼女は迷う。決して、メイシアがマクベスタを信頼していない訳ではないのだ。
 ある日を境にマクベスタのアミレスを見る目が変わった事に、メイシアは目敏く気づいていた。ただ暫く観察してみたところ、アミレスへの実害は無さそうだと見込み、放置していたのである。

 メイシアはアミレスの幸せを心より願っているが、同時にアミレスには恋人なんて不要と思っている。
 ……──恋人や家庭を持つ事だけが幸せじゃないもん。わたしがいるから、アミレス様に伴侶なんていらないもん…………。
 そんな事を考えてはアミレスに好意を抱く人間を片っ端から危険視している。
 アミレスに恋人が出来たとして……今までのように構って貰えなくなる事を、メイシアは恐れていた。

(もしもマクベスタ様がパートナーとしてパーティーに出た事で、お二人が婚約関係だとかそんな根も葉もない噂が流れ出したら……わたしはもう、我慢ならないわ)

 現在マクベスタとアミレスの歳の差は二つ。第二王子と唯一の王女たる二人は、確かに婚約関係と噂されてもおかしくない立場にあった。
 ただでさえ、マクベスタとアミレスがやけに親密という噂が王城では流れているのに……パーティーにパートナーとして現れたりすれば、誤解が深まる事間違いなし。

 なので、マクベスタは選択肢から外された。
 例え噂であろうとも……アミレスが婚約だの、アミレスに恋人だの……そういった話は聞きたくない、メイシアなのであった。

「──そうですね……マクベスタ様には申し訳ありませんが、今回はイリオーデさんにお任せしましょう」
「なっ……!」

 キリリとした表情でメイシアが審査の結果を告げると、マクベスタはやはり納得がいかないようで。どうして、と言わんばかりの不満げな面持ちとなっていた。

「どうしてオレでは駄目なんだ、メイシア嬢」
「マクベスタ様とイリオーデさんのお二人を秤にかけた結果、イリオーデさんに傾いたからです。よりアミレス様に齎される不利益が少ない方を、わたしは選んだだけにすぎませんわ」
「不利益なのか、オレがアミレスのパートナーになる事は」
「まぁ、そうなりますね」
(──わたしの私情も含まれてるけど、これは言わなくていいよね)

 メイシアの言葉を受け、マクベスタは「はぁぁぁぁ……そうか、そうなのか……」と露骨に落ち込んだ。すぐ側にある長椅子《ソファ》にどっかりと腰掛け、深く項垂れる。
 それを見て、流石にメイシアもストレートに言い過ぎたかと良心の呵責に苛まれた。

「マクベスタ様はアミレス様と歳が近いでしょう。そしてどちらも王族と皇族です。もし、万が一……お二方がパートナーとしてパーティーに出る事で周囲に婚姻関係ないし恋人関係にあると誤解されては、アミレス様にとって不利益が生じますから」
「まっ──……まぁ、確かに……それもそうだな……」
「何で一瞬嬉しそうな顔したんですかマクベスタ様」
「き、気の所為だ。別に嬉しくなんてないからな、そんな嘘や誤解とはいえ嬉しいなんて全然…………オレにはそんな資格ないし……」

 メイシアが目くじらを立てて鋭く突っ込むぐらいには、マクベスタはソワソワとしていた。
 アミレスと恋人関係にある己を一瞬妄想し、多幸感に満ちたのである。想いを告げず、隠し通すと決めたものの……やはりマクベスタも十五歳の思春期の男。
 つい、こういった妄想をしては密かに喜びを噛み締めているのである。今回はメイシアにバレてしまったが。
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