だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……これは、私だけが今、やれる事だから。どんな事にも相応の危険は付き纏うものよ、危険を恐れていては……何も成し遂げられないわ」

 そうだ、失敗や危険を恐れていては生き延びるなんて不可能。幸せになる事なんて不可能なんだ。
 だから私はリスクを犯す。その先に、必ず何か得るものがあると信じて。

「……どうして、君は……そう……」

 今にも泡となって消えてしまいそうな声でシルフが何かを呟く。
 シルフは本気で心配してくれているのだ。その心配を無視するなんて本当にどうかと思う……でも、そうする必要があるんだ。

「ごめんね、シルフ。お説教は後で沢山聞くから……今だけは私の無茶を見逃して」

シルフからの返事は無かった。しかし私は気を取り直して、

「……それじゃあ、剣は魔法で隠して……シルフはどうする?」

 剣の鞘についている紐を肩に掛け、それごと剣を水の膜で覆う。これはかなりの微調整が必要で、少しでも気を抜けば服が不自然に濡れたり、剣を隠している魔法が崩れてしまう。
 何をやっているのかと言えば……義務教育の教科たる理科。その中にある光の反射分野の──全反射だ。まぁ要するに、光の反射の関係で水中にある水槽が見えなくなるアレだ。
 あれを意図的に出来ないものかと実は密かに訓練していたのだが、流石はファンタジー世界。なんと出来ちゃったのだ。
 苦節数年……ついさっき、『もうローブ使えないしどうやって抜け出そう……』と悩んだ際にこれを試し、何故かぶっつけ本番で出来てしまったので、そのまま抜け出して来たという訳だ。
 だがしかし、水の膜で隠す対象を覆い続ける必要がある為、これまた魔力の消費が激しく相当集中していなければならない。
 その上人や物に当たれば勿論相手が濡れるわ驚くわで大変なのだ……実は皇宮からここに来るまでに一回人とぶつかっちゃったんだよね、てへ。
 という訳で、正直やる意味をあまり見い出せない全反射を行いつつシルフにどうするのかと尋ねてみると、猫シルフが棘のある声で、

「駄目って言われても勝手に付いて行くよ。ボクは姿を隠しておくから、何かあったらすぐ飛び出すからね! 君の計画も無視して!」

 と言って「ふんっ」と姿を消してしまった。……これはかなり怒っているわね。
 あまりこちらで暴れる訳にはいかないらしいシルフに何かをさせないで済むよう、何も無い事を祈ろう。
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