だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「そうか。まさかお前から面と向かって祝われるとは思わなかったな」
フリードルの瞳が冷たく私を見下ろす。
私に祝うつもりもなければ、そもそも貴方はアミレスに会おうとしてなかったんだから。面と向かって祝える訳がないでしょう。
「私《わたくし》が不甲斐ない妹なばかりに、これまでお兄様のお誕生日をきちんとお祝いする事が出来ず、恥ずかしい限りです。ですので今年はとても嬉しく思いますわ。こうして、お兄様のお誕生日をお祝いする栄誉にあずかれたのですから」
今ばかりは私の感情よりもアミレスの感情が優先だ。なのでここは健気な妹を演じよう。我が演技力、とくとご照覧あれ。
「……体調はどうなんだ」
「はい?」
フリードルがボソリと呟いた。意味が分からなくて、つい反射的に聞き返してしまう。
「体調はどうなのかと聞いている。以前自ら意識を絶っただろう…………あの日の事が、あまりにも不可解で仕方無かった」
ああ、あの日の事か。不可解って……本当にこの男はどこまでも心無いのね。特に期待もしていなかったからダメージは少ないけれど、それでも心が痛まない訳では無い。
それに、あの日の事は説明が難しいのだ。実を言うとシルフ達にも意識を絶った本当の理由は話していないのだから。
「その節はご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。あの日はとても体調が悪く……お兄様の前で恥を晒すぐらいならと、自ら意識を絶ちました。あれ以来体調も快復し、今は健康ですのでご心配には及びませんわ。お心を砕いてくださり、誠にありがとうございます。お兄様」
今日の主役はフリードルだ。流石に主役を立てねばなるまい。なので妹を気遣う優しい兄という構図になるよう誘導してみた。
勿論それだけが理由ではない。
私は天才だから気づいてしまった……フリードルに楯突く事で衝動的に殺される可能性も全然ある事を。
これまで顔を合わせる度に喧嘩腰で相対していたのだから、当然好感度なんて底辺も底辺。寧ろマイナスまで落ちまくっている事だろう。
だから今更ではあるが、こうして世間のイメージ改善に務め、皇帝だけでなくフリードルにとっても役に立つ存在なのだと示す事にした。忘れていたが、この男も私の死亡フラグを強く握っているのだから当然だ。
今更取り繕っても無駄かもしれないけどね。一応やれる限りの事はやっておきたいのだ。
「……埒が明かないな、この話はこれで終わりだ。父上がお前に与えたこの機会、決して無駄にするな。良いな?」
「えぇ、当然ですわ。どうぞ……私《わたくし》の事は気にせずこのパーティーを心ゆくままにお楽しみくださいませ、お兄様」
礼儀として挨拶に来ただけだもの。フリードルの方から離れてくれるのならこれ以上の事は無いわ。
イキイキとした笑顔でフリードルを送り出す。その様子が気に食わないのか、フリードルは一度強くこちらを睨み、やがて不服ながらも踵を返した。
勝ちましたわ〜〜〜〜っ! いつもは私から離れていたのに、今日はフリードルから離れさせる事が出来たわ! これは間違いなく大いなる進歩…………いつの間にかレスバが強くなっていたのかもしれないわ。
「ふぅ……そう言えばイリオーデは終始無言だったけれど、兄様とも昔会った事があったんでしょう? 何か積もる話とか無かったの?」
自然にイリオーデの腕にもたれ掛かり、エスコートされている風に見せ掛けながら移動する。だってあの場所、狩人みたいな目をした令嬢達に囲まれていたから怖かったのよ。
その際、ふと気になった事を口にしたのだ。
「いえ、特には。それに皇族の方々の会話に割って入るような愚行は犯しませんよ」
「あらそうなの。あっ、あそこの立食区画に行きましょう。ダンスの時間までは食事を楽しむ事にするわ」
「は、仰せのままに」
イリオーデはどうやら本当にアミレスの事以外はどうでもいいらしく、フリードルとの積もる話とかは特に無いようだ。
本人がそれでいいのならと、私はとりあえず立食用のテーブルが立ち並ぶ区画に視線を送り、イリオーデとそちらへ向かう。
あくまでも王女の品位を保つ必要があるので、いつもの様に食事をする事は不可能だが……それでも多少は私も楽しめるだろうと踏んだのだ。
そして私は堂々とスイーツを頬張る。あくまでも王女らしく。あくまでも上品にスイーツを堪能する。
食べたい物を指定すると、イリオーデが全部持って来てくれるので私はほとんど一歩も動かず様々なスイーツを堪能していた。
王女の私が毒味の一つもさせず、すぐにスイーツを頬張った事に周りは驚いていた。しかしそれも束の間、親鴨に続く小鴨のように、「王女殿下がお食べになるなら……」と続々と立食に手を出す人が現れ始めた。
そんな人々から注目を浴びるのはシュークリーム。前にふと食べたくなって、ダメ元でシャンパージュ伯爵にある程度の作り方を教えたところ、何と完璧に再現されたのだ。
それがシャンパー商会のスイーツ店から販売され、今では若い世代を中心に大人気なのだとか。なんと、ついに王城でのパーティーにまで進出するレベルに至ったらしい。
まぁ、シュークリームって本当に美味しいし。人気が出るのも当然よね。
しかしそれにしてもシャンパー商会の力が凄まじい。本当に何なのかしら、あの商会。何でも出来るじゃない。
……今度あれも頼んでみようかしら。ブリオッシュ。
オタクとしては一度でいいからおやつに食べてみたいのよねぇ、ブリオッシュ。確かパンの一種よねあれ。何とかしてこの世界で再現出来ないかしら。
フリードルの瞳が冷たく私を見下ろす。
私に祝うつもりもなければ、そもそも貴方はアミレスに会おうとしてなかったんだから。面と向かって祝える訳がないでしょう。
「私《わたくし》が不甲斐ない妹なばかりに、これまでお兄様のお誕生日をきちんとお祝いする事が出来ず、恥ずかしい限りです。ですので今年はとても嬉しく思いますわ。こうして、お兄様のお誕生日をお祝いする栄誉にあずかれたのですから」
今ばかりは私の感情よりもアミレスの感情が優先だ。なのでここは健気な妹を演じよう。我が演技力、とくとご照覧あれ。
「……体調はどうなんだ」
「はい?」
フリードルがボソリと呟いた。意味が分からなくて、つい反射的に聞き返してしまう。
「体調はどうなのかと聞いている。以前自ら意識を絶っただろう…………あの日の事が、あまりにも不可解で仕方無かった」
ああ、あの日の事か。不可解って……本当にこの男はどこまでも心無いのね。特に期待もしていなかったからダメージは少ないけれど、それでも心が痛まない訳では無い。
それに、あの日の事は説明が難しいのだ。実を言うとシルフ達にも意識を絶った本当の理由は話していないのだから。
「その節はご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。あの日はとても体調が悪く……お兄様の前で恥を晒すぐらいならと、自ら意識を絶ちました。あれ以来体調も快復し、今は健康ですのでご心配には及びませんわ。お心を砕いてくださり、誠にありがとうございます。お兄様」
今日の主役はフリードルだ。流石に主役を立てねばなるまい。なので妹を気遣う優しい兄という構図になるよう誘導してみた。
勿論それだけが理由ではない。
私は天才だから気づいてしまった……フリードルに楯突く事で衝動的に殺される可能性も全然ある事を。
これまで顔を合わせる度に喧嘩腰で相対していたのだから、当然好感度なんて底辺も底辺。寧ろマイナスまで落ちまくっている事だろう。
だから今更ではあるが、こうして世間のイメージ改善に務め、皇帝だけでなくフリードルにとっても役に立つ存在なのだと示す事にした。忘れていたが、この男も私の死亡フラグを強く握っているのだから当然だ。
今更取り繕っても無駄かもしれないけどね。一応やれる限りの事はやっておきたいのだ。
「……埒が明かないな、この話はこれで終わりだ。父上がお前に与えたこの機会、決して無駄にするな。良いな?」
「えぇ、当然ですわ。どうぞ……私《わたくし》の事は気にせずこのパーティーを心ゆくままにお楽しみくださいませ、お兄様」
礼儀として挨拶に来ただけだもの。フリードルの方から離れてくれるのならこれ以上の事は無いわ。
イキイキとした笑顔でフリードルを送り出す。その様子が気に食わないのか、フリードルは一度強くこちらを睨み、やがて不服ながらも踵を返した。
勝ちましたわ〜〜〜〜っ! いつもは私から離れていたのに、今日はフリードルから離れさせる事が出来たわ! これは間違いなく大いなる進歩…………いつの間にかレスバが強くなっていたのかもしれないわ。
「ふぅ……そう言えばイリオーデは終始無言だったけれど、兄様とも昔会った事があったんでしょう? 何か積もる話とか無かったの?」
自然にイリオーデの腕にもたれ掛かり、エスコートされている風に見せ掛けながら移動する。だってあの場所、狩人みたいな目をした令嬢達に囲まれていたから怖かったのよ。
その際、ふと気になった事を口にしたのだ。
「いえ、特には。それに皇族の方々の会話に割って入るような愚行は犯しませんよ」
「あらそうなの。あっ、あそこの立食区画に行きましょう。ダンスの時間までは食事を楽しむ事にするわ」
「は、仰せのままに」
イリオーデはどうやら本当にアミレスの事以外はどうでもいいらしく、フリードルとの積もる話とかは特に無いようだ。
本人がそれでいいのならと、私はとりあえず立食用のテーブルが立ち並ぶ区画に視線を送り、イリオーデとそちらへ向かう。
あくまでも王女の品位を保つ必要があるので、いつもの様に食事をする事は不可能だが……それでも多少は私も楽しめるだろうと踏んだのだ。
そして私は堂々とスイーツを頬張る。あくまでも王女らしく。あくまでも上品にスイーツを堪能する。
食べたい物を指定すると、イリオーデが全部持って来てくれるので私はほとんど一歩も動かず様々なスイーツを堪能していた。
王女の私が毒味の一つもさせず、すぐにスイーツを頬張った事に周りは驚いていた。しかしそれも束の間、親鴨に続く小鴨のように、「王女殿下がお食べになるなら……」と続々と立食に手を出す人が現れ始めた。
そんな人々から注目を浴びるのはシュークリーム。前にふと食べたくなって、ダメ元でシャンパージュ伯爵にある程度の作り方を教えたところ、何と完璧に再現されたのだ。
それがシャンパー商会のスイーツ店から販売され、今では若い世代を中心に大人気なのだとか。なんと、ついに王城でのパーティーにまで進出するレベルに至ったらしい。
まぁ、シュークリームって本当に美味しいし。人気が出るのも当然よね。
しかしそれにしてもシャンパー商会の力が凄まじい。本当に何なのかしら、あの商会。何でも出来るじゃない。
……今度あれも頼んでみようかしら。ブリオッシュ。
オタクとしては一度でいいからおやつに食べてみたいのよねぇ、ブリオッシュ。確かパンの一種よねあれ。何とかしてこの世界で再現出来ないかしら。