だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

176.皇太子の誕生日

 翌朝。何故か昨日よりも入念な手入れにより本日も私は完璧なコンディション。化粧もアクセサリーもドレスも昨日とは違うものだが、昨日のセットアップとはまた違った良さがあって良い。
 本日のドレスはここぞとばかりにヴァイオレットの新作。派手というよりかは、シンプルめでありつつもレースやフリルで全体的に清楚さを演出している一品。

 折角なので首元にはリードさんから貰ったブルーナイトパールのネックレスを。右手の中指にはシュヴァルツから貰ったサファイアの指輪を。
 更にはマクベスタから貰った香油も少し使ってみた。既にいい香りがふんわりと漂ってくる。
 そうやって、ちょいちょいポイントに希少な物を身につけてみている。
 そして手には丁寧に包装された手のひらサイズの箱。これはフリードルに渡す誕生日プレゼントである。
 今日は令嬢達よりも、各家門の当主や外部からの貴賓等が多く来る日。この日も社交界デビューである事に変わりはないが、昨日程の派手さは必要無いという判断だった。

 あくまでも今日の主役はフリードル。あくまでもあの男を立てるように振る舞い、あくまでも私は脇役に務めなくてはならない。
 心底面倒臭いが、これもアミレスの仕事なので仕方あるまい。
 ……と、言いたい所なのだが。

「まさかお父様がパーティーに来るなんて……」

 昨日と同じ、王城へと向かう道をイリオーデと共に歩きつつ、私は軽く絶望していた。
 それは先程風の噂で聞いた話。あのパーティー嫌いで有名な皇帝が、今日は少しパーティー会場に留まる予定なのだという。
 つまり……必然的に、顔を合わせる必要が生まれてしまったのだ。

 アミレス・ヘル・フォーロイトの悲運の元凶、八割近くの死亡フラグを握る冷酷無比なる現皇帝──エリドル・ヘル・フォーロイトに。
 フリードルに面と向かってプレゼントを渡すだけでも荷が重いのに、まさか皇帝とついに会う必要が出て来るとは。
 体が小刻みに震える。私にとっての絶望そのものである男と、会わなければならないなんて。もしも今日殺されてしまったら……本当に、死んでも死にきれないわ。
 祟るぐらいは絶対すると思う。

「確かに、あの皇帝陛下にしてはとても珍しいですね」

 今日はどうやら騎士としてではなく、ランディグランジュ侯爵家の次男としてパートナーを務めるようで…………昨日は団服だったが、今日のイリオーデは貴族らしい正装だった。
 イリオーデは周囲への警戒を怠る事無く、私の隣を歩いている。

「お父様と顔を合わせるのなんて、もう何年振りなのかしら……七……八年振りよ。もうずっとお父様の声は聞いてないから、とても緊張するわ」

 私も避けていたし、私がアミレスになる前から向こうもこちらを避けていた。
 だから本当にそれぐらい会っていない期間があるのだ。同じ敷地内にいるのにね。

「大丈夫です、私が傍におります。例え何があろうとも、私が王女殿下をお守り致します」

 おもむろにその場で片膝をつき、私の手を握って彼は宣言する。
 騎士の格好ではない状態でそんな事をされてしまうと、なんだかまるで、王子様に傅かれるお姫様のような気分に陥って。
 恥ずかしいという気持ちと同時に、緊張が和らぐような……そんな安心感が私の心に生まれた。

「そうね、イリオーデがいるんだもの。きっと大丈夫だわ」

 イリオーデを立ち上がらせて、改めてパーティー会場に向かう。今日は時間に余裕をもって出て来たので、パーティー会場に近づくにつれて同じように会場を目指す人が多くなって来た。

 しかし、相変わらずモーセのように私が通る道は何故か開かれる。何もしてないのに、周りが勝手に道を開けるのだ。
 歩いているだけなのに好奇の目に晒される……野蛮王女だからなぁ……。
 そんなこんなで会場に辿り着く。会場には様々な家門の当主達やその息子が多くいるようで、今日はフリードルと我が子をお近づきにさせたい者が多いらしい。

 何とか、父親に似て滅多に社交界に出ないあの男と親しくなろうと、強く意気込んでいる人が多いイメージだ。
 正史《ゲーム》だと、大公領からわざわざ登城して来たレオナードがフリードルの側近になるから、彼等は活躍の機会が無いのよね…………彼等の為にもレオナードが登城しなくても済むように、大公領の内乱を何とかしないとな。

「あら、オセロマイト王。遠路遥々ようこそお越し下さいました」
「招待状をいただいたからには当然、皇太子殿下のお誕生日を祝いに来るとも。また貴女に会えて嬉しい。我が国の救世主、氷結の聖女様」

 オセロマイトの人達は絶対にその呼び方をするのね。
 周囲の帝国貴族達が「氷結の聖女……??」とザワついているから、ちょっとやめて欲しいな。
 オセロマイト王は王妃を連れてないようなので、マナー通り手を差し出し、オセロマイト王からギリギリ手の甲に触れない程度の挨拶を受ける。
 配慮してくれたのかしら……流石はオセロマイト王、いい人だ。うちの無情の皇帝なんかとは違って。
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