だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
178.皇太子の誕生日3
「帝国が太陽、氷城が主、エリドル・ヘル・フォーロイト皇帝陛下のご入場になります!!」
昨日私がされたような宣誓と共に、入口から向かって奥にある皇帝専用の入口から皇帝が姿を見せた。
会場にいる者達は、皆がその姿を目にして戦慄する。圧倒的な威圧。息をする事さえ許されないような、そんな圧倒的オーラに誰もが固唾を飲む。
「……──皇太子、フリードル・ヘル・フォーロイトの誕生パーティーによくぞ来た。心ゆくままに楽しむといい」
ゆっくりと開かれた皇帝の口。皇帝がおもむろに階段を降り始めると、会場にいた者達が「ワァーーーッ!」と大歓声をあげた。
こういうパーティーに出るのは初めてなのだが、いつもこうなんだろうか。皇帝直々に楽しむよう言われただけで、誰もが大喜びである。
ちょっとノリに着いていけないな……と気後れしていると、気がついたら皇帝が目の前までやって来ていた。
その冷酷な瞳で見下され、私の体はビクリとも動かなくなった。心の奥底から感じる恐怖。その存在に対する様々な感情が渦潮のように心を抉り、混ざりゆく。
「フリードル。この先も我が後継者として恥じぬ働きを見せよ。お前の価値を示せ」
「はい。必ずや父上の期待にお応えしてみせます」
顔も上げられず、俯いたまま固まる私の体。
だけど。緑の竜に始めて会った時に比べると、呼吸はまだ出来ている──いいやそれどころか、段々体の自由が効くようになって来た。
それよりも、どういう事? 確かに体は恐怖を覚えているのに……どうしてか、この人への愛情を全然感じない。
フリードルに会う時は、いつもアミレスの持つ彼への愛情を感じていた。なのに、どうしてこの人には感じないんだ? アミレスは、あんなにも父親を愛しているのに──。
「挨拶一つも満足に出来ぬか。まこと愚鈍な奴よな」
小さく舌打ちをして、皇帝はパーティー会場を去った。その後フリードルは侮蔑の視線をこちらに向け、招待客達の対応に移った。
そして。そこに取り残された私はと言うと。
「……っ! こわ、かった……ぁ!!」
「大丈夫ですか、王女殿下!」
緊張の糸が切れ、足に力が入らなくなる。フラリと倒れてしまいそうな所をイリオーデが支えてくれて、何とか立てている状況だった。
「お疲れ様です、王女殿下。よく頑張られましたね……どこか静かな場所で休みましょう。とても、顔色が悪いので」
余裕が無くて、私は頷く事しか出来なかった。
イリオーデに支えられるようにして歩き、近くのテラスに出た。そこにはベンチがあったので、それに腰掛け、息を整える。
イリオーデは何か飲み物を取ってくると言って一瞬姿を消し、そしてすぐに戻って来た。
彼から手渡されたジョーヌベリーのジュースを飲み、少し休んだからか顔色も良くなったらしい。イリオーデが安心した顔になっている。
「その、ごめんね。迷惑……というか、心配かけちゃって。思ってたよりも、ずっと……お父様に会う事が、怖かったみたい」
何とか笑顔を作るも、イリオーデはその顔に影を落すだけで。
「第三者である私が『仕方の無い事』などと知ったように全てを語る事は出来ませんが……これだけは。王女殿下が抱かれた恐怖というものは、王女殿下のみが抱くものではないのです。あの場にいた者達全てが、等しくかの御方への恐怖を抱いた事でしょう」
グラスを握る私の手に一回りも大きい手のひらを重ねて、イリオーデは小さく微笑んだ。
「なので、そう思い詰めないで下さい。貴女様だけではないのです。なので、その事で思い詰めるぐらいなら私に吐き出して下さい。その為の私です。その為の、貴女様だけの騎士なのですから」
「…………うん。ありがとう、イリオーデ。お父様の事も、あまり深くは考えないようにするね」
優しく寄り添ってくれたイリオーデのお陰もあって、精神面も程よく回復。心が弱いなら弱いなりに工夫していかないとね、とまた新たな学びを得た。
例えばイリオーデの言ったように誰かに愚痴るとか、そもそも気にしないようにするとか。出来るかどうかは別として、予め逃げ道を用意しておくのはいいかもしれない。
メンタルよわよわだからなぁ、私。ハハハ……と情けない笑いをこぼす。
そうやって夜風に当たり、気分転換にイリオーデと話していた時だった。
「田舎者の癖に出しゃばるんじゃねぇ!」
「俺達は別に田舎者って訳じゃ…………っ」
「はぁ? 田舎者は田舎者だろう。頭に筋肉しか詰まってない野蛮な戦闘民族は森にでも住んでろ!」
「ッ! お前……っ!!」
「あぁ? やんのかテメェ!」
テラスの下の方から二人の男の言い合いが聞こえて来た。手すりから身を乗り出してみると、確かに下の方に人影が見えて……、
「殴るなら殴ってみろよ、出来ねぇんだろ? 野蛮な戦闘民族サマは帝都で暴力沙汰を起こせねぇもんなぁ?」
「っ!」
粗暴な口調の男がもう一人の男の胸ぐらに掴みかかる。しかし、胸ぐらを掴まれた男は反撃するように見えない。
あれ、もしかしてこのままだとあの人殴られてしまうのでは? 皇太子の誕生パーティーで暴力沙汰を見過ごした、とか絶対後で文句言われるやつよね。
……仕方ないか。
「イリオーデ、グラス持ってて」
「お、王女殿下? 一体何を……!?」
二階相当の高さ…………多分いけるわ、これ。下手したら足折れそうだけど、まぁ、いいか。
「じゃあちょっと行ってくるからここで待ってて」
ギョッとしているイリオーデを置いて、私は華麗にテラスから飛び降りる。それと同時に「待ちなさい!」と叫ぶと、男達はこちらを見て目を点にしていた。
タァンッ!! と盛大にヒールを鳴らし、ドレスをふわりと膨らませて着地する。あ、足ちょっと痺れたかも。
昨日私がされたような宣誓と共に、入口から向かって奥にある皇帝専用の入口から皇帝が姿を見せた。
会場にいる者達は、皆がその姿を目にして戦慄する。圧倒的な威圧。息をする事さえ許されないような、そんな圧倒的オーラに誰もが固唾を飲む。
「……──皇太子、フリードル・ヘル・フォーロイトの誕生パーティーによくぞ来た。心ゆくままに楽しむといい」
ゆっくりと開かれた皇帝の口。皇帝がおもむろに階段を降り始めると、会場にいた者達が「ワァーーーッ!」と大歓声をあげた。
こういうパーティーに出るのは初めてなのだが、いつもこうなんだろうか。皇帝直々に楽しむよう言われただけで、誰もが大喜びである。
ちょっとノリに着いていけないな……と気後れしていると、気がついたら皇帝が目の前までやって来ていた。
その冷酷な瞳で見下され、私の体はビクリとも動かなくなった。心の奥底から感じる恐怖。その存在に対する様々な感情が渦潮のように心を抉り、混ざりゆく。
「フリードル。この先も我が後継者として恥じぬ働きを見せよ。お前の価値を示せ」
「はい。必ずや父上の期待にお応えしてみせます」
顔も上げられず、俯いたまま固まる私の体。
だけど。緑の竜に始めて会った時に比べると、呼吸はまだ出来ている──いいやそれどころか、段々体の自由が効くようになって来た。
それよりも、どういう事? 確かに体は恐怖を覚えているのに……どうしてか、この人への愛情を全然感じない。
フリードルに会う時は、いつもアミレスの持つ彼への愛情を感じていた。なのに、どうしてこの人には感じないんだ? アミレスは、あんなにも父親を愛しているのに──。
「挨拶一つも満足に出来ぬか。まこと愚鈍な奴よな」
小さく舌打ちをして、皇帝はパーティー会場を去った。その後フリードルは侮蔑の視線をこちらに向け、招待客達の対応に移った。
そして。そこに取り残された私はと言うと。
「……っ! こわ、かった……ぁ!!」
「大丈夫ですか、王女殿下!」
緊張の糸が切れ、足に力が入らなくなる。フラリと倒れてしまいそうな所をイリオーデが支えてくれて、何とか立てている状況だった。
「お疲れ様です、王女殿下。よく頑張られましたね……どこか静かな場所で休みましょう。とても、顔色が悪いので」
余裕が無くて、私は頷く事しか出来なかった。
イリオーデに支えられるようにして歩き、近くのテラスに出た。そこにはベンチがあったので、それに腰掛け、息を整える。
イリオーデは何か飲み物を取ってくると言って一瞬姿を消し、そしてすぐに戻って来た。
彼から手渡されたジョーヌベリーのジュースを飲み、少し休んだからか顔色も良くなったらしい。イリオーデが安心した顔になっている。
「その、ごめんね。迷惑……というか、心配かけちゃって。思ってたよりも、ずっと……お父様に会う事が、怖かったみたい」
何とか笑顔を作るも、イリオーデはその顔に影を落すだけで。
「第三者である私が『仕方の無い事』などと知ったように全てを語る事は出来ませんが……これだけは。王女殿下が抱かれた恐怖というものは、王女殿下のみが抱くものではないのです。あの場にいた者達全てが、等しくかの御方への恐怖を抱いた事でしょう」
グラスを握る私の手に一回りも大きい手のひらを重ねて、イリオーデは小さく微笑んだ。
「なので、そう思い詰めないで下さい。貴女様だけではないのです。なので、その事で思い詰めるぐらいなら私に吐き出して下さい。その為の私です。その為の、貴女様だけの騎士なのですから」
「…………うん。ありがとう、イリオーデ。お父様の事も、あまり深くは考えないようにするね」
優しく寄り添ってくれたイリオーデのお陰もあって、精神面も程よく回復。心が弱いなら弱いなりに工夫していかないとね、とまた新たな学びを得た。
例えばイリオーデの言ったように誰かに愚痴るとか、そもそも気にしないようにするとか。出来るかどうかは別として、予め逃げ道を用意しておくのはいいかもしれない。
メンタルよわよわだからなぁ、私。ハハハ……と情けない笑いをこぼす。
そうやって夜風に当たり、気分転換にイリオーデと話していた時だった。
「田舎者の癖に出しゃばるんじゃねぇ!」
「俺達は別に田舎者って訳じゃ…………っ」
「はぁ? 田舎者は田舎者だろう。頭に筋肉しか詰まってない野蛮な戦闘民族は森にでも住んでろ!」
「ッ! お前……っ!!」
「あぁ? やんのかテメェ!」
テラスの下の方から二人の男の言い合いが聞こえて来た。手すりから身を乗り出してみると、確かに下の方に人影が見えて……、
「殴るなら殴ってみろよ、出来ねぇんだろ? 野蛮な戦闘民族サマは帝都で暴力沙汰を起こせねぇもんなぁ?」
「っ!」
粗暴な口調の男がもう一人の男の胸ぐらに掴みかかる。しかし、胸ぐらを掴まれた男は反撃するように見えない。
あれ、もしかしてこのままだとあの人殴られてしまうのでは? 皇太子の誕生パーティーで暴力沙汰を見過ごした、とか絶対後で文句言われるやつよね。
……仕方ないか。
「イリオーデ、グラス持ってて」
「お、王女殿下? 一体何を……!?」
二階相当の高さ…………多分いけるわ、これ。下手したら足折れそうだけど、まぁ、いいか。
「じゃあちょっと行ってくるからここで待ってて」
ギョッとしているイリオーデを置いて、私は華麗にテラスから飛び降りる。それと同時に「待ちなさい!」と叫ぶと、男達はこちらを見て目を点にしていた。
タァンッ!! と盛大にヒールを鳴らし、ドレスをふわりと膨らませて着地する。あ、足ちょっと痺れたかも。