だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「あん、たは……っ?!」
「──王女、殿下」
何事も無かったように立ち上がる私を見て、男達は顔を青くする。
……というか待ちなさい、この胸ぐらを掴まれていた男の顔……凄く見覚えがあるんだけど。言われてみればさっきの話し声だって面影があるというか、よくよく考えたら確かに似ていたというか。
いやもし仮にこの男が彼なのだとして、何故今ここにいる? 彼が帝都に来るのは一年とか二年とか後の話でしょう?
いやでも今日はフリードルの誕生パーティーだ。彼が招待されて来ていたとしてもおかしくはない。
とにかく彼等から話を聞かないと。
「騒ぎを聞きつけて来たのだけど……一体どういう了見で、私《わたくし》のお兄様の誕生パーティーに暴力沙汰を起こそうとしているのかしら?」
我がお得意技、責任転嫁──もとい大きめの主語を使用する。毎度の事ながら、フリードルを主語にするだけで事の進み具合に雲泥の差が生まれるのだ。
そして、まず粗暴な男が大袈裟に語り始めた。
「おれはトバリーチェ伯爵家の次男、ロンリー・トバリーチェです。高貴なる皇太子殿下の誕生パーティーにそこの野蛮な田舎者が侵入しようとしていたので、注意した所を逆上されたんですよ!」
それを聞いたもう一人の男が、「っ! だから俺達は野蛮じゃ……!!」と反論するも、トバリーチェはその姿を嘲笑い、相手にしない。
馬鹿なのかしら、この男。あそこの事を何も知らないのね。
「ではそちらの貴方は?」
両方の言い分を聞こうと、次はもう一人の彼に話を振る。彼は悔しげに眉を顰めてポツリポツリと話し始めた。
「俺は、レオナード・サー・テンディジェルです。普通に会場に入ろうとしたら突然この人に絡まれて……酷い誹謗中傷を受けていたところでした」
やはり。彼は──後にフリードルの側近となる男、レオナードだ。ゲームで見た姿よりも少しだけ幼く見えるが、大まかな姿は変わらない。
フリードルの誕生日をお祝いする為に来たのかな。
「はぁ…………呆れたわ。まさかお前はディジェル大公領の事を何も知らずに彼を謗っていたというのか」
「え?」
額に手を当ててわざとらしく項垂れてみると、トバリーチェにとってこれは予想外の流れなのか、目を白黒させていた。
「ディジェル大公領は別名、妖精に祝福された地。そして我が帝国を守る為、日夜奮闘する誇り高き帝国の盾──……それをお前は、野蛮な田舎者などと揶揄するか」
フォーロイト帝国が白の山脈から来る魔物達に脅かされる事無く平和に過ごせているのは、間違いなくディジェル大公領の存在あってのもの。
感謝こそすれど馬鹿にするなど以ての外。帝国貴族として恥ずべき事よ。
「彼はそのディジェル大公領を導く聡明な領主一族の若き天才。彼程の逸材が野蛮な田舎者などと呼ばれるのであれば……お前は何の価値も無いゴミ以下よ。恥を知れ」
「なっ……!?」
罵倒されたトバリーチェの顔は怒りから真っ赤になる。
やっぱり私、意外とこういうの向いてるのでは。遺憾ではあるものの、ちゃんとあの皇帝の血が流れてるのでは?
「分かったのであれば、疾く公子に謝罪し、早急にここを立ち去れ。お前のような者に、お兄様の誕生パーティーに参加する資格など無い」
「……っ、クソ! 悪かったな!!」
子供かしら? そんな捨て台詞のような言い方で何故謝罪が成り立つと思ったんだろう。
トバリーチェを睨んでみると、彼はビクッと肩を跳ねさせて脱兎のように逃げ出した。顔と名前は覚えたから後でまた罰しようと思えば出来るが……ここは一応レオナードに確認しよう。
「あの程度の謝罪で良かったのですか、公子? 必要があればあの者に更なる謝罪をさせますが」
「えっ、いや……その、大丈夫です。気を配って下さりありがとうございます、王女殿下」
「気を配ってなどないわ。私《わたくし》はただ、日々私《わたくし》どもの為に戦うディジェル大公領の者達が蔑ろにされる事が、耐えられなかっただけですから」
「……そう、ですか。我々の事をそんな風に仰って下さったのは、王女殿下が初めてです」
レオナードはあどけない笑顔を浮かべた。ゲームで見た時よりもずっと自然で、ありのままの姿と言うべき明るい笑顔。
内乱で妹を亡くした失意の中、無理やり登城させられた"彼"とは違う、まだ翳りのない眩しい笑顔。守らないとな、この笑顔を。
「では、人を待たせておりますので私《わたくし》はこの辺りで。今宵は我が国で最も煌びやかな夢の一夜……心ゆくままに、どうぞ楽しんでいって下さいまし」
笑みを浮かべたままドレスを摘み、私は優雅に一礼する。
折角、遠路遥々大公領から帝都まで来てくれたんだもの……可能な限り楽しんでいって貰いたいと思う事は、当然の事だ。
そして、私はその場を後にした。登ろうと思えばテラスまで登れない事もないのだけど、流石にレオナードの前でそれはちょっと。
仕方なく会場の正面入り口に向かい、わざわざ全反射を使って姿を隠し、こっそりと会場に入る。そして人にぶつからぬよう細心の注意を払いつつテラスに出て──全反射を解除する。
「はぁ……疲れた」
久々の全反射に疲弊し、ふぅ、と一息つく。
「っ、王女殿下!! 何故、あのような無茶を……!?」
「えーっと、飛び降りた方が早いから? でも大丈夫よ、怪我はしてないから」
「そういう問題ではないのです! 何故、貴女様はそういつもいつも全て御自身で何とかしようと動かれるのですか!!」
イリオーデは珍しく、とても怒っていた。それと同時にとても心配してくれたらしい。
その後も暫くその場で説教され、ハイラ達が私を捜しに来るまでそれは続いた。しかし、イリオーデから話を聞いたハイラとマクベスタが説教を再開したのだ。
お陰様でもう本当に耳が痛い。しかも、何故か最終的に反省文まで書く事になった。つらいです。
「──王女、殿下」
何事も無かったように立ち上がる私を見て、男達は顔を青くする。
……というか待ちなさい、この胸ぐらを掴まれていた男の顔……凄く見覚えがあるんだけど。言われてみればさっきの話し声だって面影があるというか、よくよく考えたら確かに似ていたというか。
いやもし仮にこの男が彼なのだとして、何故今ここにいる? 彼が帝都に来るのは一年とか二年とか後の話でしょう?
いやでも今日はフリードルの誕生パーティーだ。彼が招待されて来ていたとしてもおかしくはない。
とにかく彼等から話を聞かないと。
「騒ぎを聞きつけて来たのだけど……一体どういう了見で、私《わたくし》のお兄様の誕生パーティーに暴力沙汰を起こそうとしているのかしら?」
我がお得意技、責任転嫁──もとい大きめの主語を使用する。毎度の事ながら、フリードルを主語にするだけで事の進み具合に雲泥の差が生まれるのだ。
そして、まず粗暴な男が大袈裟に語り始めた。
「おれはトバリーチェ伯爵家の次男、ロンリー・トバリーチェです。高貴なる皇太子殿下の誕生パーティーにそこの野蛮な田舎者が侵入しようとしていたので、注意した所を逆上されたんですよ!」
それを聞いたもう一人の男が、「っ! だから俺達は野蛮じゃ……!!」と反論するも、トバリーチェはその姿を嘲笑い、相手にしない。
馬鹿なのかしら、この男。あそこの事を何も知らないのね。
「ではそちらの貴方は?」
両方の言い分を聞こうと、次はもう一人の彼に話を振る。彼は悔しげに眉を顰めてポツリポツリと話し始めた。
「俺は、レオナード・サー・テンディジェルです。普通に会場に入ろうとしたら突然この人に絡まれて……酷い誹謗中傷を受けていたところでした」
やはり。彼は──後にフリードルの側近となる男、レオナードだ。ゲームで見た姿よりも少しだけ幼く見えるが、大まかな姿は変わらない。
フリードルの誕生日をお祝いする為に来たのかな。
「はぁ…………呆れたわ。まさかお前はディジェル大公領の事を何も知らずに彼を謗っていたというのか」
「え?」
額に手を当ててわざとらしく項垂れてみると、トバリーチェにとってこれは予想外の流れなのか、目を白黒させていた。
「ディジェル大公領は別名、妖精に祝福された地。そして我が帝国を守る為、日夜奮闘する誇り高き帝国の盾──……それをお前は、野蛮な田舎者などと揶揄するか」
フォーロイト帝国が白の山脈から来る魔物達に脅かされる事無く平和に過ごせているのは、間違いなくディジェル大公領の存在あってのもの。
感謝こそすれど馬鹿にするなど以ての外。帝国貴族として恥ずべき事よ。
「彼はそのディジェル大公領を導く聡明な領主一族の若き天才。彼程の逸材が野蛮な田舎者などと呼ばれるのであれば……お前は何の価値も無いゴミ以下よ。恥を知れ」
「なっ……!?」
罵倒されたトバリーチェの顔は怒りから真っ赤になる。
やっぱり私、意外とこういうの向いてるのでは。遺憾ではあるものの、ちゃんとあの皇帝の血が流れてるのでは?
「分かったのであれば、疾く公子に謝罪し、早急にここを立ち去れ。お前のような者に、お兄様の誕生パーティーに参加する資格など無い」
「……っ、クソ! 悪かったな!!」
子供かしら? そんな捨て台詞のような言い方で何故謝罪が成り立つと思ったんだろう。
トバリーチェを睨んでみると、彼はビクッと肩を跳ねさせて脱兎のように逃げ出した。顔と名前は覚えたから後でまた罰しようと思えば出来るが……ここは一応レオナードに確認しよう。
「あの程度の謝罪で良かったのですか、公子? 必要があればあの者に更なる謝罪をさせますが」
「えっ、いや……その、大丈夫です。気を配って下さりありがとうございます、王女殿下」
「気を配ってなどないわ。私《わたくし》はただ、日々私《わたくし》どもの為に戦うディジェル大公領の者達が蔑ろにされる事が、耐えられなかっただけですから」
「……そう、ですか。我々の事をそんな風に仰って下さったのは、王女殿下が初めてです」
レオナードはあどけない笑顔を浮かべた。ゲームで見た時よりもずっと自然で、ありのままの姿と言うべき明るい笑顔。
内乱で妹を亡くした失意の中、無理やり登城させられた"彼"とは違う、まだ翳りのない眩しい笑顔。守らないとな、この笑顔を。
「では、人を待たせておりますので私《わたくし》はこの辺りで。今宵は我が国で最も煌びやかな夢の一夜……心ゆくままに、どうぞ楽しんでいって下さいまし」
笑みを浮かべたままドレスを摘み、私は優雅に一礼する。
折角、遠路遥々大公領から帝都まで来てくれたんだもの……可能な限り楽しんでいって貰いたいと思う事は、当然の事だ。
そして、私はその場を後にした。登ろうと思えばテラスまで登れない事もないのだけど、流石にレオナードの前でそれはちょっと。
仕方なく会場の正面入り口に向かい、わざわざ全反射を使って姿を隠し、こっそりと会場に入る。そして人にぶつからぬよう細心の注意を払いつつテラスに出て──全反射を解除する。
「はぁ……疲れた」
久々の全反射に疲弊し、ふぅ、と一息つく。
「っ、王女殿下!! 何故、あのような無茶を……!?」
「えーっと、飛び降りた方が早いから? でも大丈夫よ、怪我はしてないから」
「そういう問題ではないのです! 何故、貴女様はそういつもいつも全て御自身で何とかしようと動かれるのですか!!」
イリオーデは珍しく、とても怒っていた。それと同時にとても心配してくれたらしい。
その後も暫くその場で説教され、ハイラ達が私を捜しに来るまでそれは続いた。しかし、イリオーデから話を聞いたハイラとマクベスタが説教を再開したのだ。
お陰様でもう本当に耳が痛い。しかも、何故か最終的に反省文まで書く事になった。つらいです。