だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「ミカリア様は本当に神々しくあらせられますわね。その微笑み、まさにアルカイックスマイルですわ」
「ふふ、そんなに褒めてもお金ぐらいしか出せませんよ? 姫君にお褒めいただけるのであれば、これからはもっと笑うようにしますね」
うわ、本当に眩しい。目が潰されそうな程の眩しさだ。
それにしても……ミカリアって本当に誰にでも優しいんだな。ゲームではたまに部下に怒ったりしてたけど、それは怒って当然の規律違反とかだったから。
実際滅多に怒らないし、ずっと優しく微笑んでいるイメージだったから、その通りと言えばそうなんだけど。改めて目の当たりにすると、本当に人類最強の聖人って感じがする。
ぼけーっとミカリアの顔を眺めていた時、彼の後ろから予想外の人物が顔を見せた。
「おいミカリア。何騒ぎを起こしてやがる……落ち着いてスイーツも食えんだろう」
「別に僕が起こした騒ぎではないんだけど」
「向こうのテーブルで毒だなんだと大騒ぎで、あのテーブルにあるスイーツが食えなくなったんだが。どうしてくれるんだお前」
「だから僕が起こした騒ぎではないんだけどね」
毛先の色素が抜け落ちる黒髪に、深紅の鋭い瞳。アンディザの色気枠とまで言われた甘いマスクの持ち主。
引く程の甘党な吸血鬼──……アンヘル・デリアルドが、何故ここに?! 確かにデリアルド伯爵家は帝国との付き合いがそこそこにあるとは言え、まさか貴方まで招待されてたの?!
立て続けに現れる予想外の招待客達にあんぐりとしていると、
「何だこのガキ」
「だからガキなんて無粋な言い方しないでよ。姫君は特別な方なんだから」
「あぁ、コイツが例の……言われてみればフォーロイトの色だなコイツ」
「普通言われなくても一目で分かると思うけどね」
アンヘルはもぐもぐとスイーツを頬張りつつ、鋭くこちらを一瞥した。しかしその視線に私に対する興味関心といったものは感じられず、本当に何の興味も抱かれていないな……とちょっと安心すらした。
アンヘルはちゃんとアンヘルだなぁと。
「ああそうだ。姫君、こちらは僕の知人のアンヘル・デリアルド君です」
知人という紹介に、ゲームで語られた二人の過去を思い出してしんみりとした気分になる。
二人は最悪の出会い方をし、やがて知人になった。国教会の聖人と混血《ハーフ》の吸血鬼という異なる立場の二人が歩んで来た道は……とても穏やかなものだったとは言えない。
心の置けない存在となった二人がその縁を保つ為には、知人という関係でなければならなかったのだ。
どれだけ友達になりたくても、ミカリアとアンヘルの立場上それは叶わない。そもそも他人に興味が無いアンヘルはともかく、元々友達を欲していたミカリアはアンヘルの件を経て更に友達を欲するようになった。
その友達に私はなった訳だけど…………やっぱりミカリアはアンヘルと友達になりたかったんじゃないかなって思う。ゲームではその心情までは語られていなかったけど、絶対そうだと思う。
ミカリアのアンヘルに対する親愛は確かなものだから。
「お初にお目にかかりますわ、デリアルド辺境伯様」
「……辺境伯だけでいい。家名で呼ばれるのは好かん」
「畏まりました、辺境伯様」
うんうん知ってる知ってる。ゲーム一作目から言ってたもんね、それ。
アンヘルは自身を除いた一族全てが原因不明の急死となり、その地位に立つ事を余儀なくされた。そして純血の一族に生まれた混血《ハーフ》という事もあり、彼は吸血鬼一族《デリアルド》の名を嫌っている。
それを知った上で家名で呼んだのは、これがルールだからである。初対面でいきなり名前呼びは馴れ馴れしいと、まずは家名で呼ぶ事が暗黙の了解となっているのだ。
「改めまして、本日は遠路遥々ようこそお越し下さいました。辺境伯様、ミカリア様」
ペコりと一礼し、私はアンヘルに提案する。
「あの、辺境伯様。ものにもよりますが……スイーツをお持ち帰りいただけるよう、ご用意する事も可能ですがいかがなさいますか?」
アンヘルは先程、毒殺未遂事件の所為でテーブルに近づけなくなったとぼやいていた。
あのアンヘルがわざわざパーティーにまで来てくれたんだもの、少しでも満足してもらいたい。スイーツだけならばテイクアウト用に用意する事も可能だろうし、砂上の楼閣とは言え私も立派な王女……皇族だ。
多分、それぐらいの我儘は通るでしょう。
「本当か!?」
瞬く間に詰め寄られ、期待に見開かれた深紅の瞳はじっとこちらを見つめている。
「は、はい。さる御方がたいへんお気に召された、とでも言えば用意して貰えると思いますので」
「そうか……!」
途端に明るくなるアンヘルの表情。ちょっときゅんと来たわよ。可愛いわね、リアルスイーツ男子……。
ゲームの時ですら、『ギャップ萌え』『何だこの男、可愛いじゃねぇか』『ふーん、キュートじゃん』とアンディザファンに言われていたのだ。実物の破壊力が凄い。
「フッ……ミカリアの言う通り、コイツはそんじょそこらのガキとは一味違うな」
「本当に現金だね君は」
機嫌が良くなったアンヘルが得意げな顔で呟くと、ミカリアがそれに鋭くツッコミを入れる。どうやら私は、スイーツをダシにアンヘルに認めて貰えたらしい。
「ふふ、そんなに褒めてもお金ぐらいしか出せませんよ? 姫君にお褒めいただけるのであれば、これからはもっと笑うようにしますね」
うわ、本当に眩しい。目が潰されそうな程の眩しさだ。
それにしても……ミカリアって本当に誰にでも優しいんだな。ゲームではたまに部下に怒ったりしてたけど、それは怒って当然の規律違反とかだったから。
実際滅多に怒らないし、ずっと優しく微笑んでいるイメージだったから、その通りと言えばそうなんだけど。改めて目の当たりにすると、本当に人類最強の聖人って感じがする。
ぼけーっとミカリアの顔を眺めていた時、彼の後ろから予想外の人物が顔を見せた。
「おいミカリア。何騒ぎを起こしてやがる……落ち着いてスイーツも食えんだろう」
「別に僕が起こした騒ぎではないんだけど」
「向こうのテーブルで毒だなんだと大騒ぎで、あのテーブルにあるスイーツが食えなくなったんだが。どうしてくれるんだお前」
「だから僕が起こした騒ぎではないんだけどね」
毛先の色素が抜け落ちる黒髪に、深紅の鋭い瞳。アンディザの色気枠とまで言われた甘いマスクの持ち主。
引く程の甘党な吸血鬼──……アンヘル・デリアルドが、何故ここに?! 確かにデリアルド伯爵家は帝国との付き合いがそこそこにあるとは言え、まさか貴方まで招待されてたの?!
立て続けに現れる予想外の招待客達にあんぐりとしていると、
「何だこのガキ」
「だからガキなんて無粋な言い方しないでよ。姫君は特別な方なんだから」
「あぁ、コイツが例の……言われてみればフォーロイトの色だなコイツ」
「普通言われなくても一目で分かると思うけどね」
アンヘルはもぐもぐとスイーツを頬張りつつ、鋭くこちらを一瞥した。しかしその視線に私に対する興味関心といったものは感じられず、本当に何の興味も抱かれていないな……とちょっと安心すらした。
アンヘルはちゃんとアンヘルだなぁと。
「ああそうだ。姫君、こちらは僕の知人のアンヘル・デリアルド君です」
知人という紹介に、ゲームで語られた二人の過去を思い出してしんみりとした気分になる。
二人は最悪の出会い方をし、やがて知人になった。国教会の聖人と混血《ハーフ》の吸血鬼という異なる立場の二人が歩んで来た道は……とても穏やかなものだったとは言えない。
心の置けない存在となった二人がその縁を保つ為には、知人という関係でなければならなかったのだ。
どれだけ友達になりたくても、ミカリアとアンヘルの立場上それは叶わない。そもそも他人に興味が無いアンヘルはともかく、元々友達を欲していたミカリアはアンヘルの件を経て更に友達を欲するようになった。
その友達に私はなった訳だけど…………やっぱりミカリアはアンヘルと友達になりたかったんじゃないかなって思う。ゲームではその心情までは語られていなかったけど、絶対そうだと思う。
ミカリアのアンヘルに対する親愛は確かなものだから。
「お初にお目にかかりますわ、デリアルド辺境伯様」
「……辺境伯だけでいい。家名で呼ばれるのは好かん」
「畏まりました、辺境伯様」
うんうん知ってる知ってる。ゲーム一作目から言ってたもんね、それ。
アンヘルは自身を除いた一族全てが原因不明の急死となり、その地位に立つ事を余儀なくされた。そして純血の一族に生まれた混血《ハーフ》という事もあり、彼は吸血鬼一族《デリアルド》の名を嫌っている。
それを知った上で家名で呼んだのは、これがルールだからである。初対面でいきなり名前呼びは馴れ馴れしいと、まずは家名で呼ぶ事が暗黙の了解となっているのだ。
「改めまして、本日は遠路遥々ようこそお越し下さいました。辺境伯様、ミカリア様」
ペコりと一礼し、私はアンヘルに提案する。
「あの、辺境伯様。ものにもよりますが……スイーツをお持ち帰りいただけるよう、ご用意する事も可能ですがいかがなさいますか?」
アンヘルは先程、毒殺未遂事件の所為でテーブルに近づけなくなったとぼやいていた。
あのアンヘルがわざわざパーティーにまで来てくれたんだもの、少しでも満足してもらいたい。スイーツだけならばテイクアウト用に用意する事も可能だろうし、砂上の楼閣とは言え私も立派な王女……皇族だ。
多分、それぐらいの我儘は通るでしょう。
「本当か!?」
瞬く間に詰め寄られ、期待に見開かれた深紅の瞳はじっとこちらを見つめている。
「は、はい。さる御方がたいへんお気に召された、とでも言えば用意して貰えると思いますので」
「そうか……!」
途端に明るくなるアンヘルの表情。ちょっときゅんと来たわよ。可愛いわね、リアルスイーツ男子……。
ゲームの時ですら、『ギャップ萌え』『何だこの男、可愛いじゃねぇか』『ふーん、キュートじゃん』とアンディザファンに言われていたのだ。実物の破壊力が凄い。
「フッ……ミカリアの言う通り、コイツはそんじょそこらのガキとは一味違うな」
「本当に現金だね君は」
機嫌が良くなったアンヘルが得意げな顔で呟くと、ミカリアがそれに鋭くツッコミを入れる。どうやら私は、スイーツをダシにアンヘルに認めて貰えたらしい。