だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
♢第三章・傾国の王女

184.ある青年の驚愕

 俺はいわゆる、ロマンチストというものだった。

 可愛い可愛い妹に恵まれ、その妹と昔から兄妹仲が良かった事もあり、俺は幼い頃から物語や絵本ばかりを読んでいた。
 当然、領地の運営に必要な勉強やその手の難しい本を読む事もあったが、妹……ローズと本を読む時はいつも恋物語やロマン溢れる小説とかだった。ローズがその手の本を特に好み、俺もまたローズの影響でそれを好むようになったからだ。

 だからだろうか。そんな本ばかりを読んで育って来たからか、今や俺の好みは非現実的なものとなっていた。
 ……いや、でもね? もしかしたら億分の一ぐらいは可能性もあるかなー。なんて考えていたんだ。
 俺の好みにピッタリと合う、幻想的で神秘的な女性……そんな人がこの広い世界のどこかに、一人ぐらいはいるんじゃないか。そんな淡く馬鹿馬鹿しい期待を抱いていたんだ。

 俺は……困った事に、後々領主になる事が確定している。だから、そんな俺にさっさと婚約者をあてがおうと周りの大人達は躍起になっていたのだが、ローズが俗に言うブラコンというものであり、かつ俺自身がこんな嗜好をしていた事から、これまで婚約者の話題はなあなあで済ましていた。

 しかし、俺ももうすぐで十七歳になる。それなのに婚約者の一人もいないのはおかしいのではと、ついに叔父様にまで苦言を呈されてしまった。
 困った事にただただ正論だった。なので俺は渋々、気は乗らないものの帝都で開かれるフリードル殿下の誕生パーティーに出席する事にした。
 一ヶ月近い馬車での移動を終え、帝都に着くと俺は圧巻された。話には聞いていたものの、帝都は本当に発展していて……高い建物に所狭しと立ち並ぶ様々な店。ディジェル領では見ないような最先端の流行り物。

 まさにおのぼりさん、と言うべき程に俺は辺りをキョロキョロ見渡しては未知の世界に目を輝かせていた。何せディジェル領から出て、なおかつ帝都まで来たのは初めてなのだ。そりゃあ興奮もするよね。

 ……それにしても視線が凄いな。やっぱりおのぼりさんって馬鹿にされてるのかな。まぁでも事実そうだから何も言えない。
 特に女性からの視線が凄い。帝都は男女問わずお洒落だと聞くし、もしかして俺の格好が相当酷いのか?
 いやでも今の俺なんて、どこにでもあるようなシャツにありふれたズボン、それとどこでも買えるようなベストだよ? こんなよくある普通の格好ですら帝都では不躾な服装扱いされるのか?!

 えぇ……帝都怖ぁ……皆が言ってたように、帝都の人は俺達みたいな地方民をすぐ無粋な田舎者扱いするんだなぁ……こんな風にジロジロと奇異の目に晒されるなんて。帝都怖い。
 はぁ。と大きくため息を吐いて、俺はとりあえず通りを歩く。
 今日はフリードル殿下の十五歳の誕生パーティーの前日。どの店も既に大盛り上がりのようだ。
 どうせ俺は二日目しか出ないんだし、それまで暇だからな……ローズに頼まれていたお土産探しでもしようか。

 そう決めて、大通りの色んな店を見て回る事にした。
 まず足を踏み入れたのは勿論本屋。流石は帝都の本屋だと思わず感嘆の息を漏らしながら、天井まで届く高い本棚の間をうろうろする。

 ──はっ! あれってシェザード先生の新作じゃないか?! 一体いつになったらディジェル領にも回って来るのかと、その新作の情報を聞いてからローズと待ち侘びていたあの新作!!
 しかも二巻まであるじゃないか! 俺達の所に一巻が回って来る前に二巻まで出ているのか、帝都では!! 帝都凄いな!

 興奮する内なる自分を落ち着かせて、シェザード先生の新作『涙の妖精姫』の一巻と二巻を手に取る。ほう、今回の挿絵はルルバ先生の『田舎者のわたしが王女に?!』の挿絵を担当していたコマーリシア先生か。何だ、良作確定じゃないか。

 ああ、今から読むのが楽しみだ。他にも色々と土産を買う予定ではあるが、きっとローズも読みたいだろうから、先に早馬で手紙と一緒にこれを送っておこう。
 ルンルン気分で会計を済ませ(何だか凄く周りの女性客に見られていた。そんなに見るも無残なのか、この格好は?)、次は大通りでも一際若い女性達で賑わうヴァイオレットという店に入った。

 外からも薄らと見えていたが、ここはどうやら服飾店のようで。あまり見ないタイプのドレスが多く陳列されていた。それを見て、あれがいいだのこれが似合うだの頬を染めてはしゃぐ令嬢達。
 そして相も変わらずめちゃくちゃ注目される俺。まぁ、当然か……こんな不躾な格好でこんなお洒落な店に男一人で入ったらそりゃあ目立つ。

 ローズの付き添いでよくこういう店には来ていたから、この雰囲気自体には慣れているし特に萎縮もしない。俺はただローズへの土産を買いに来ただけだしね。
 少しでも周りの令嬢達の気を悪くしないよう、目が合ったら微笑みながら会釈した。するとどうだろう。勢いよく顔を逸らされ、何なら顔を真っ赤にしてヒソヒソと陰口まで叩かれている。

 …………俺、そんなに酷いの??
 もう一度ちらりと己の体に視線を落とし、服装を見直してみる。しかし、俺の感性ではこれは全然普通だ。帝都の感性分かんねぇ……。
 いいやもう気にしない。と気を取り直して、俺はひとまずドレスを色々と見て行くのだが、ある一着の前でピタリと足が止まる。
 とても綺麗で、まるで物語のお姫様が着るような可憐なドレス。見るからにローズが好きそうなドレスだった。
 良し、これにするか。と決めて「すみません、店員はいますか」と店員を呼んでみる。すると一人の女性が慌てて出て来て、「はい、何でしょうか?」と対応してくれた。

「あの、このドレスください」
「このドレスを……ですか?」

 周りの女性客達がざわつく。店員もまた目を白黒させていて。

「はい。あ、もしかして……これって非売品とかですか?」

 だったら恥ずかしい事をしたな。と少し顔が熱くなる。
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