だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「いえっ、そういう訳ではなくて。こちらの商品は当ブランドのデザイナー、スミレによる春の新作で…………今現在当店で最も高い一品なのです」
「高い……ああ成程、そういう事ですか。でもまぁ、値段はどうでもいいのでこちらをください」

 値段は特に気にしていなかったのだが、どうやらこのドレスは今この店で最も高い物らしい。だから俺がこれを買うと言った時、周りの女性客達が驚いたようなのだ。

「妹への贈り物なので、出来る限り可愛く包装してもらえると助かります」

 ローズは可愛いものが大好きだからな。きっと包装もドレスも可愛かったら喜んでくれるだろう。
 こちらの要望通り、やけに可愛く包装してくれた店員にお礼を言いつつ、その場でピッタリと現金で支払いその箱を持って外に出る。

 ……うーむ、やっぱり誰かしら荷物持ちを連れてくるべきだったな。夕方まで自由行動にするんじゃなかった。
 このままローズへの土産を買ってたら両手がいっぱいになってしまいそうだ。とは思いつつも、ローズが気に入りそうな物を見つけては次々購入。案の定両手がいっぱいになってしまった。

 しかし俺はテンディジェルの人間だ。こんな事もあろうかと持ってきておいた魔導具がある。
 一旦荷物をベンチに置いて、ポケットから麻の布袋を取り出す。これはこう見えてちゃんとした魔導具で、中は亜空間になっており、いくらでも物を入れる事が出来る。

 この中にローズへの土産を全部入れると、随分と荷物が減った。こんな便利な物があるなら最初から使えと言われそうだが……これは父さんから借りて来たものなので、使い過ぎて付属の魔石に貯蓄された魔力を使い果たしては父さんに怒られる。だからあまり使い過ぎるのもよくないのだ。

 可能なら使わずに済ませたかったんだけど、帝都にローズが好きそうな物が多いからさぁ……。
 可愛い妹を愛する兄としては、ついつい目についたものを片っ端から買ってしまうんだよね。
 父さんに怒られるのはもう諦めるとして、開き直った俺は折角の帝都を楽しむ事にした。主に買い物で。
 色んな店に入ってはローズへの土産を買い、たまに母さんや父さんや伯父様が好きそうなものを見つけたらそれも買った。

 そうして、帝都に来た初日を買い物だけで潰す。帝都滞在中に寝泊まりするテンディジェル邸に帰ると、既に護衛達は自由行動を終えて戻って来ていた。
 ちなみに明日は帝都近郊の領地を回って、どのような運営をしているかの視察をするつもりだ。
 テンディジェル家は二日目に参加しろとのお達しなので、他の日は本当に自由なのだ。
 とりあえずローズへ無事に帝都に到着した旨の手紙と、例の新作二巻を早馬で送る。届くまで、早くても半月ぐらいはかかってしまうだろうけど。

 そして帝都に来て二日目。俺達は帝都から馬車で三時間程のランディグランジュ領に向かった。
 テンディジェル大公家とランディグランジュ侯爵家は切っても切れぬ縁がある。ウチが帝国の盾と呼ばれているのは、ひとえにランディグランジュ侯爵家が帝国の剣と呼ばれているからであって。

 実のところ、初代ランディグランジュ侯爵──正真正銘の帝国の剣が、我がテンディジェル家の分家筋の者だった事もあり、かなり遠縁かつ薄れているものの……この両家は親戚同士だったりするのだ。
 ランディグランジュ侯爵には明日挨拶をする予定なので、今日はとりあえずその領地をこっそり見させてもらおうかなーと。そう、俺達は思った訳でして。
 ランディグランジュ領に入ってすぐ、かなり栄えている町に着いた。町の近くには噂に聞く剣術学校もあって、その盛り上がりはかなりのもの。

「……話には聞いてたけど、現ランディグランジュ侯爵は歴代ランディグランジュ侯爵の中で一番領地の運営に成功してるみたいだ」

 町を歩いていると、ここがランディグランジュ領の玄関口故にここだけ気合いを入れて見栄を張っている、とかそんな感じではないと分かった。
 誰もが心から楽しそうに笑い、働き、生きている。……久しく、ディジェル領では見ていない光景だ。

 この辺りの気候や土地では栽培出来ないようなものも適正な価格で市場に普通にある事から、ランディグランジュ領の隅々まで領主が目を向け手を尽くして来たのだろう。
 その証拠か、この町にいる人達はランディグランジュ領を愛し、そして領主を完全に信頼しているのだと見て取れる。
 それだけ領主──ランディグランジュ侯爵が優れた人格者であるという事。

「きっと、俺なんかとは違って凄い自信に満ち溢れた……度胸ある人なんだろうな」

 何せ、帝国の剣という栄誉を捨ててまで領地の運営に注力する程の人なんだ。俺みたいな卑屈で陰湿で優柔不断で頭を使う事しか出来ない愚図とは大違いの、凄い人に決まってる。

「レオナード様レオナード様、向こうで軽い腕試しみたいなのやってるみたいなんスけど、参加して来てもいいですか?」
「あ、じゃあおれもやりてぇな。ここら辺の奴等がどんだけつえーのか試してやるか」
「それなら僕も……ここは一つ、格の違いというものを見せつけてやりますかね」

 俺が一人、真面目に視察をする中。護衛達がこぞって暴れようとする。
 近頃はずっと馬車での移動で道中で何度か魔物を倒していたと言えども、普段ディジェル領の民や白の山脈から来る魔物を相手するような彼等はまだまだ全然暴れ足りてないようだ。
 安全だと分かりきっている帝都ならまだしも、いつ魔物が現れるかも分からない場所で一人にされると困るんだが……彼等は一体、自分が何の為の護衛なのか分かってるのかな? 分かってないんだろうな。
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