だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

185.ある青年の義憤

「はぁ……くれぐれもやり過ぎないように。俺はとりあえずそこの店で休んでおくから、終わったら呼んで」
「よっしゃー!」
「キタキタキタァ! さっすがレオナード様、話が分かるぅ!!」
「ふっ……目に物見せてやりますか」

 彼等の言う腕試しとやらの会場のすぐ近くにある喫茶店に入り、初めて聞く紅茶を注文してみる。店の前にあるテラス席に一人で座り、紅茶を嗜みながら自分の護衛達がいかに暴れ回っているのかを眺めていた。
 腕試しは最終的に護衛三人の対決となり、結果、俺の護衛の中でも一二を争う筋肉のユバイヤが優勝した。

「ま、こんなモンっすよ」
「ちくしょー、またユバイヤに負けたぁ」
「サルバにもあと少しで勝てたんですけどねぇ……おかしいなァ……」

 何かいい汗かいてるなこの男達。本業忘れてないだろうな君達。
 俺は君達と違って強くともなんともないんだから、君達が守ってくれなきゃすぐ死んでしまうんだよ。

「あのね、君達は一応俺の護衛なんだから。ちゃんと仕事してくれないと」

 流石にローズに別れも言えずに死ぬのは嫌なので、俺としてはちゃんと生きて帰りたい。その為には彼等の協力が必須なので、雇用側として苦言を呈した。
 するとユバイヤが後頭部をポリポリと掻き、

「もしもの時はちゃんとレオナード様の護衛に戻るつもりでしたよ? 一応腕試し中も基本的にはレオナード様に意識向けてたんで」

 信じ難い事を口にする。いやどう見ても君達腕試しを楽しんでたよね?

「そーっすよー、おれ達の事なんだと思ってんですかぁー」
「まるで僕達がちゃんと仕事してないみたいな言い方でしたね。心外です」

 するとそれに続いて、サルバとモイスが唇を尖らせる。
 自分の事を妙に棚に上げる彼等に少し呆れつつも、

「護衛中に腕試ししたいなんて言い出した癖によく言うな」

 俺はピシャリと言い放った。
 彼等が断りを入れて来たとか、本当は俺に意識を向けていたとか、そういうのは最早どうでもいい。彼等が職務中にそれを放棄するような言動をした事を、俺はわざわざ蒸し返しているのだ。
 我ながらなんとも陰湿で根暗な性格だ。まぁ、昔からだけど。

 護衛達に小言を言いながら帝都に戻る。その夜、仕返しとばかりに三人の酒盛りに付き合わされ、返り討ちにした。そして最終的に俺が全員の介抱をする事になった。
 俺は特に体が頑丈な訳でも強い訳でもない愚図だけど、その代わりかめちゃくちゃ酒に強い。今のところ飲み比べでは連戦連勝だ。

 ディジェル領はその特異性から成人年齢が男女共に十五歳に定められていて、十五歳になれば領地から出られるし酒も煙草も許されるようになる。
 体が貧弱な俺は酒なんて飲めないと周りに言われていたのだが──ある種の反抗的精神からか十五歳の誕生日に無理に酒を飲んだ結果、酒にだけめちゃくちゃ強い事が明らかになった。
 ちなみに煙草はすぐに噎せてしまって、体が受け付けなかった。

 そんなこんなで酒は飲めるので、こうして皆と一緒に飲むといつも俺が最後まで残り、酔い潰れた人達の介抱をする事になるのだ。……しかし、護衛としてどうなんだ? 酔い潰れて護衛対象に介抱されるとか。

 やれやれ。とため息と共に彼等の体を引っ張る。「んぐぐぐぐぐ…………っ!!」と全身に力を入れて、何とか寝台《ベッド》まで一人ずつ引き摺ってゆく。やっと全員を運び終えると、俺は床に座り込んで大きく肩で息をした。
 人体って本当に重たい。色々と工夫を凝らせばもっと楽だったのかもしれないけど、実行出来る気がしないし。

 あー疲れた。とわざとらしくため息をつきながら俺も入眠し、ついにパーティーの参加当日を迎えた。
 会場は王城の為護衛はいらないと、三人には留守番を頼んだ。この血気盛んな男三人を連れて行けば、確実に騒ぎになるだろうから。
 招待状とフリードル殿下への贈り物を持ち、正装に着替え、夜になると王城の前まで護衛達に見送りされた。

 三人に「思い切りぶちかまして来てくださいよ!」と意味不明に背を押されて城門を潜り、王城に足を踏み入れ──る直前。何者かが、俺の肩を強く掴んで来たのだ。

「おいてめぇ……どこの誰だ? 見ねぇ顔だな」

 何と品が無く、輩のような人なのか。出会い頭にこのような失礼な口調……貴族としての常識をもっと学んでくれ。
 帝都にはこんな貴族までいるんだな……礼儀も弁えないなんてどうかと思うよ。自分が世界の中心とでも思ってるのかなぁ、思い上がりも甚だしい。

「…………初対面ですけど、何か用ですか?」

 こんな失礼な奴に敬語を使うなんて嫌だけど、俺まで同程度の人間と思われるのはもっと嫌だ。だから一応敬語で対応する事にした。
 するとどうだろう。この男は偉そうに威張り始めた。

「見ねぇ顔だからこのおれ自ら名前を聞いてやろうと思ってな。で、誰だお前? 今まで見なかったって事は……相当な田舎出身なんだろうな」

 人の波から外れ、人気の無い所に連れて行かれた俺は、初対面の男に随分と失礼な事を言われていた。
 確かに今まで社交界に出た事は無かったさ。だけど、それで田舎者だと言われるのは凄く癪に障る。伯父様から聞いてたけど……帝都の人達が俺達の事をどこか下に見て馬鹿にしてるって話は本当なのかもしれない。

「人に名を聞く時はまず自分から名乗る事が礼儀では? そんな常識的な事もままならないなんて、自分だったら恥ずかしくて社交界に顔なんて出せないですよ」

 すごく腹が立ってきたので、俺は笑顔で告げた。暗に『お前みたいな失礼な奴に名乗る名前なんてねーよ!』と匂わせているのだが、この馬鹿な男はそれにも気づけないようで。

「ハァ? てめぇ……誰に向かって物言ってやがる!! おれが名乗れって言ってんだからさっさと名乗れ!!」

 顔を赤くして、まるで子供のような癇癪を起こす。うっわー、この男絶対ろくな教育受けてないんだろうな。低脳さがひしひしと伝わってくるよ。
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