だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 孤児院は子供中心、集合住宅は世話が必要な老人や持病持ちの人を中心に。そんな風に優先順位を決めて入居者を募り、無事どちらも満杯に。その後、貧民街の人達から『自分もちゃんとした家に住みたい』という旨の希望を多く聞いたので、一時的に皆さんには仮設の集会所のような所で集団生活をして貰い、労働力は勿論その本人達で新たな集合住宅を建設中。

 大衆浴場や診療所や孤児院などの建設資金は主に私の私財やシャンパー商会の資産から捻出していたのだが、貧民街に沢山の集合住宅を作る大規模な計画の企画書をシャンパージュ伯爵が国に提出したところ、正式な許可と共にとんでもない額の予算が出た。

 私が趣味で始めたこの貧民街大改造計画は、一躍国家事業へと進化したのだ。
 貧民街の一角を大改造する計画が、今や貧民街全域を大改造する計画になって……その計画の責任者が、言い出しっぺの私なのだ。お陰様で忙しいったらありゃしない。

「ふむふむ……病人や要介護者の集まる集合住宅か。老人ホームとか病院の方が近そうな概要だな。なぁなぁアミレス。確かお前、何か職業訓練学校的なの作ろうって話してたよな?」
「してたけどそれは別の話よ。というか勝手に見ないでよ、せめて一言ちょうだい」

 勝手に貧民街大改造計画の資料を手に取り、読んでいるカイルからそれを奪い返し、急に何? と問う。

「いや、これどう考えても貧民街に看護師とかいた方がいいなーと思って。看護師とまではいかなくても、職業訓練学校作る前に、試験的に貧民街で介護要員の育成とかしてとりあえず介助人を用意した方がいいんじゃねーの? そしたらご高齢の人達や病人の世話がスムーズになるし、職も増える。なおかつお前が作りたがってる職業訓練学校のいい前例になって、一挙両得だと思うけど」

 カイルは至極真面目に陳述した。
 この男は本当に、たまにこうしてめちゃくちゃ役立つ事を言い始める。彼の意見に一理ある、と納得させられた私は一応その旨を資料の裏に書きなぐる。

「介助人か……職業訓練学校の試験的運用で貧民街にあった方がいい職業を育成するのはアリね」
「だろ? 俺的には救命士とかも育成した方がいいと思うぜ」
「確かに貧民街で治療活動が出来る場所は診療所しか無いし、その癖事故や事件は多いから……そういう存在がいた方が生存率が上がるかもね」
「というか、救命士に限らず市民全員にある程度の医学知識を与える事はいいと思うけどな」
「それは義務教育法案が可決されたら実践するわ。とりあえずは介助人の育成ね……」

 どうして彼が敵国の話なのにどうしてこんなに親身になるのか分からないが、私はカイルと真剣に話し合っていた。するといつの間にかマクベスタがすぐ傍まで寄って来てて。
 それに気づいたカイルが嬉しそうに「どしたん、マクベスタ?」と聞くと、

「……今まで、オレは他国の人間だからとアミレスの仕事には首を突っ込まないようにしてたんだが、カイルが関わるのなら、オレも関わろうと思って。オレも何かしら力になれる……かもしれないから」

 視線を明後日の方向に逸らしつつ、少し耳を赤くしてマクベスタはそう言った。
 首を突っ込まないように、とは言うけれど……マクベスタはなんやかんやでずっと傍で色々とサポートしてくれていた。侍女達が忙しい時に代わりに紅茶を持って来てくれたりと、一歩線を引いていてこの話には関わらなかったものの、彼は私本人を支えてくれていた。

 そんなマクベスタがついに首を突っ込んでくれるのだという。ゲームでもマクベスタの地頭の良さは何度も描写されていたから、そんな彼がこうして頭を使う事に関わってくれる事がアンディザファンとして嬉しい。

「本当? 少しでも色んな視点からの意見が欲しかったから、そう言ってくれるのは嬉しいわ」

 笑ってそう告げると、マクベスタは改まった顔で任せろと頷いた。するとその後ろからひょこっと師匠とイリオーデが顔を出して。

「それなら俺の意見もなんか役に立ちますかね?」
「貧民街は私の第二の家です。私も、何かお役に立ちたく申し上げます」

 何と二人も協力すると申し出てくれた。そんな心強い助っ人からも色んな意見を聞くなどして、貧民街大改造計画について実りのある話し合いを出来た。
 その途中でふと、

「そーいやあっちの法案の方はいいんすか? なんとか会議ってやつ、もう三日後とかなんですよね?」

 師匠が教育法の方は放っておいて大丈夫なのかと案ずる。そんな師匠を見上げて、私は大丈夫と笑いかけた。

「台本はもう全部頭の中にあるし、資料だって後はもう複製するだけだもの。特に緊張とかもしてないし、心配はいらないよ」
「へぇそりゃ凄い……って。台本ってあれですよね、あのくそ長ぇ文章……?」
「そうよ?」

 それ以外に何があるの? と首を傾げると、私の目の前にいる美形達はイリオーデを除き皆揃って呆れのような表情になって。ちなみに、イリオーデは何やら一人だけしたり顔になっている。
 一体何なんだと思いながらそれを眺めていると、腰に手を当ててため息をついた師匠がおもむろに口を開いて、

「いやぁ、姫さんの記憶力がスゲーのは知ってましたけど……改めて聞くと本当に凄いっすね」

 ぽんぽん、と私の頭を撫でて来た。かけっこで一等賞を取った我が子を褒める親のように、優しい声で「流石っすね」と笑いかけてくれる。
 こんな風に褒められた事があまりないので、喜びから頬が緩む。

「べ、別にそんな凄くないよ。だって覚えようと思わなきゃ覚えられないし。一度見聞きしたら何もかも覚えられる人だって世界にはいるんだから、そういう人のがずっと凄いよ」

 私は照れ隠しで師匠の手を雑に退けて言い放った。
 ちなみにその一度見聞きしたら全てを覚えられるというのはズバリ、レオナードの事だ。あの秀才はとんでもない才能まで持っているのだ。

 しかしそれを知らない人達は(カイルは知ってる筈なんだけどね)この発言がどうにも気に入らなかったようで、「そんな事ないっすよ」「お前が一番凄いに決まってるだろう」「やはり王女殿下こそが至上です」「チート、乙!」とやけに私の発言を否定して来た。

 しかし残念ながら私なんてただちょっと人より記憶力がいいだけで、真の天才がこの世にいるんですよね。
 そう、何度も言っても皆は全く理解してくれなかったのだった。
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