だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「自営業による年間収入はおよそ三万氷金貨とかなりのもので、その主な収入源はカジノの模様。カジノのディーラーは頭目自ら育成しているようで、暫く観察してみましたが全体的に高水準の腕前でした」
「そのディーラー達に不正はあったかしら?」
「いいえ。相手方に気取られぬ程度に魔力を使い観察しておりましたが、俺が見ていた限りでは一度たりとも不正はありませんでした」
ふむ、ちゃんと設定と同じようね。と私は記憶通りの情報に少し安堵した。
私がわざわざ諜報部に依頼してまで秘密裏に調べたかった事、それがこの闇組織スコーピオンの事なのだ。
このスコーピオンという組織はフリードルとマクベスタとサラの三人のルートの中盤に出てくる敵で、フリードルのルートで言えば赤髪連続殺人事件の解決──アルベルト殺害よりも少し後に、このスコーピオンが帝都を混乱の渦に巻き込む。
彼等三人以外のルートではだいたい発生するフォーロイト帝国とハミルディーヒ王国の戦争。その代わりとなるべく発生するイベントが、このスコーピオンとの対決なのだ。
闇組織スコーピオンが、伝染病によって滅び不毛の地となったオセロマイト王国より持ち帰った禍々しい魔石。それによって肉体を強制的に昇華させ、帝都で暴れる。それによって、彼等は帝国社会に蔓延る貴族階級……この身分社会を破壊しようと帝都を戦場に変えた。
彼等が襲ったのは決まって貴族と、兵士や騎士だけだった。
『身分だの階級だの大昔の誰かが決めただけの見えない鎖に縛られる生活なんて、真の自由とは言い難い!!』
『人は自由であるべきだ。こんな腐った社会に縛られて生きる人生に何の意味がある!?』
そう叫んだスコーピオンの頭目──ヘブンは、絶対に平民には攻撃しないよう部下に命じた上で、徹底的に貴族を皆殺しにしようとした。
しかし、それを防いだのがフリードルとマクベスタとサラなのだ。各々自分のルートではメインとなり、他のルートではサポートに回る。
この三人とミシェルちゃんの尽力あって、被害を最小限に抑えて勝利する事が叶ったのだ。
だがここでミシェルちゃんは葛藤する。スコーピオンの言葉も理解出来ない訳ではなかったから。
平民出身でありながら加護属性《ギフト》を所持している事で特権階級を与えられたミシェルちゃんは、それによる周りの手のひら返しや態度に陰で困惑していた。
それと同時に、
『……本当に、この世界は肩書きでしか人を見ないのね』
と、この世界に根強く蔓延る身分主義の存在を痛感していた。
それらの経験から、スコーピオンの言い分も全てが間違いとは言えなくて……それでミシェルちゃんの心がここから少しずつ曇ってゆくのだ。
そしてのちにその曇りを晴らすのは当然、攻略対象の役目である。──とまぁ、こんな感じでゲームでのスコーピオンの出番は終わるのだが…彼等の事はちゃんとファンブックにも記されていたのだ。
『【スコーピオン──何よりも平等と公正を重んじる組織。収入源としてカジノなどを運営しているが、そのカジノではただの一度も不正を許した事は無い】』
そう、ファンブックには書かれていた。だからこそ、アルベルトの報告にもそのような記載があって私は安心したのだ。
ちゃんとゲームの設定通りに、スコーピオンという組織が存在しているのだと分かって。
そしてそのカジノなどがあるスコーピオンの本拠地、港町ルーシェ……フォーロイト帝国内で唯一海に面している領地、アルブロイト領の中でも一二を争う発展した町。
そこに行けばスコーピオンに会える。彼に会う為の方法ならゲームでも一瞬チラッと描写されていたから、分からなくもない。ならばやる事は決まったも同然。
──大公領の内乱を阻止する為に、私は彼等を利用する。
いずれ悪になり、無惨に散ると決まっているのなら……その運命を私が捻じ曲げてやる。
いずれ来る運命よりもずっと早く、私が彼等を悪にする。無惨に散る運命諸共、スコーピオンの運命をめちゃくちゃに変えてやろう。
「……ありがとう、ルティ。お陰様でようやく私も決心がついたわ」
「決心、ですか?」
アルベルトの虚ろな瞳が私を捉える。
「えぇ。これはここだけの話なんだけどね──」
彼に近寄り、踵を上げてその耳元で私は囁く。
「私、最低最悪の王女として暴れるつもりなの」
それが、それだけが……私が思いつく事の出来る、大公領を守る唯一の方法だから。その為なら私は悪にでもなんにでもなってやる。
その意志をこっそりと伝えてみたところ、アルベルトは困惑に表情を固めて。
「二人だけの秘密だからね?」
「えっ……はい、分かり……ました」
口元に人差し指を当てて、秘密だよと釘を刺す。
アルベルトはそうやって流されるままに肯定し、やがて報酬の話題に移った。私はいくらでも要求してくれて構わないと伝えたのだが、アルベルトから要求された報酬は──、
「たったの氷金貨一枚なんて…………本当にこれだけでいいの?」
「はい。これだけで十分です」
アルベルトはそう言って一枚の氷金貨を強く握りしめた。
いや十分な訳ないでしょ。報酬システムはどうなったのよ。一定の金額が定められてるんじゃないの?
「いやいやいや……いくら私が諜報部の事に明るくなくてもこれがおかしい事だとは分かるわよ。本当はどれぐらいの金額なのかしら?」
一ヶ月もそこそこ危険な組織の調査をさせたのだ。流石にたったの氷金貨一枚で事を済ませる訳にはいかない。私のプライドがそれを許してくれない。
しかし、アルベルトは一向に金額を変える気配がなくて。
「……では、次にお会いする時まで考えておきます。それまでは報酬も保留という事で」
「保留??」
「はい。それでは俺はこの辺りで。改めまして……この度はご依頼ありがとうございました──またのご贔屓を」
それだけ言い残して、アルベルトは闇に溶け込むかのように刹那のうちに姿を消した。
アルベルトの妙に頑固な一面に、私はゲームで見たサラの姿を思い出した。……兄弟揃って変なところで頑固なんだなぁと。
「そのディーラー達に不正はあったかしら?」
「いいえ。相手方に気取られぬ程度に魔力を使い観察しておりましたが、俺が見ていた限りでは一度たりとも不正はありませんでした」
ふむ、ちゃんと設定と同じようね。と私は記憶通りの情報に少し安堵した。
私がわざわざ諜報部に依頼してまで秘密裏に調べたかった事、それがこの闇組織スコーピオンの事なのだ。
このスコーピオンという組織はフリードルとマクベスタとサラの三人のルートの中盤に出てくる敵で、フリードルのルートで言えば赤髪連続殺人事件の解決──アルベルト殺害よりも少し後に、このスコーピオンが帝都を混乱の渦に巻き込む。
彼等三人以外のルートではだいたい発生するフォーロイト帝国とハミルディーヒ王国の戦争。その代わりとなるべく発生するイベントが、このスコーピオンとの対決なのだ。
闇組織スコーピオンが、伝染病によって滅び不毛の地となったオセロマイト王国より持ち帰った禍々しい魔石。それによって肉体を強制的に昇華させ、帝都で暴れる。それによって、彼等は帝国社会に蔓延る貴族階級……この身分社会を破壊しようと帝都を戦場に変えた。
彼等が襲ったのは決まって貴族と、兵士や騎士だけだった。
『身分だの階級だの大昔の誰かが決めただけの見えない鎖に縛られる生活なんて、真の自由とは言い難い!!』
『人は自由であるべきだ。こんな腐った社会に縛られて生きる人生に何の意味がある!?』
そう叫んだスコーピオンの頭目──ヘブンは、絶対に平民には攻撃しないよう部下に命じた上で、徹底的に貴族を皆殺しにしようとした。
しかし、それを防いだのがフリードルとマクベスタとサラなのだ。各々自分のルートではメインとなり、他のルートではサポートに回る。
この三人とミシェルちゃんの尽力あって、被害を最小限に抑えて勝利する事が叶ったのだ。
だがここでミシェルちゃんは葛藤する。スコーピオンの言葉も理解出来ない訳ではなかったから。
平民出身でありながら加護属性《ギフト》を所持している事で特権階級を与えられたミシェルちゃんは、それによる周りの手のひら返しや態度に陰で困惑していた。
それと同時に、
『……本当に、この世界は肩書きでしか人を見ないのね』
と、この世界に根強く蔓延る身分主義の存在を痛感していた。
それらの経験から、スコーピオンの言い分も全てが間違いとは言えなくて……それでミシェルちゃんの心がここから少しずつ曇ってゆくのだ。
そしてのちにその曇りを晴らすのは当然、攻略対象の役目である。──とまぁ、こんな感じでゲームでのスコーピオンの出番は終わるのだが…彼等の事はちゃんとファンブックにも記されていたのだ。
『【スコーピオン──何よりも平等と公正を重んじる組織。収入源としてカジノなどを運営しているが、そのカジノではただの一度も不正を許した事は無い】』
そう、ファンブックには書かれていた。だからこそ、アルベルトの報告にもそのような記載があって私は安心したのだ。
ちゃんとゲームの設定通りに、スコーピオンという組織が存在しているのだと分かって。
そしてそのカジノなどがあるスコーピオンの本拠地、港町ルーシェ……フォーロイト帝国内で唯一海に面している領地、アルブロイト領の中でも一二を争う発展した町。
そこに行けばスコーピオンに会える。彼に会う為の方法ならゲームでも一瞬チラッと描写されていたから、分からなくもない。ならばやる事は決まったも同然。
──大公領の内乱を阻止する為に、私は彼等を利用する。
いずれ悪になり、無惨に散ると決まっているのなら……その運命を私が捻じ曲げてやる。
いずれ来る運命よりもずっと早く、私が彼等を悪にする。無惨に散る運命諸共、スコーピオンの運命をめちゃくちゃに変えてやろう。
「……ありがとう、ルティ。お陰様でようやく私も決心がついたわ」
「決心、ですか?」
アルベルトの虚ろな瞳が私を捉える。
「えぇ。これはここだけの話なんだけどね──」
彼に近寄り、踵を上げてその耳元で私は囁く。
「私、最低最悪の王女として暴れるつもりなの」
それが、それだけが……私が思いつく事の出来る、大公領を守る唯一の方法だから。その為なら私は悪にでもなんにでもなってやる。
その意志をこっそりと伝えてみたところ、アルベルトは困惑に表情を固めて。
「二人だけの秘密だからね?」
「えっ……はい、分かり……ました」
口元に人差し指を当てて、秘密だよと釘を刺す。
アルベルトはそうやって流されるままに肯定し、やがて報酬の話題に移った。私はいくらでも要求してくれて構わないと伝えたのだが、アルベルトから要求された報酬は──、
「たったの氷金貨一枚なんて…………本当にこれだけでいいの?」
「はい。これだけで十分です」
アルベルトはそう言って一枚の氷金貨を強く握りしめた。
いや十分な訳ないでしょ。報酬システムはどうなったのよ。一定の金額が定められてるんじゃないの?
「いやいやいや……いくら私が諜報部の事に明るくなくてもこれがおかしい事だとは分かるわよ。本当はどれぐらいの金額なのかしら?」
一ヶ月もそこそこ危険な組織の調査をさせたのだ。流石にたったの氷金貨一枚で事を済ませる訳にはいかない。私のプライドがそれを許してくれない。
しかし、アルベルトは一向に金額を変える気配がなくて。
「……では、次にお会いする時まで考えておきます。それまでは報酬も保留という事で」
「保留??」
「はい。それでは俺はこの辺りで。改めまして……この度はご依頼ありがとうございました──またのご贔屓を」
それだけ言い残して、アルベルトは闇に溶け込むかのように刹那のうちに姿を消した。
アルベルトの妙に頑固な一面に、私はゲームで見たサラの姿を思い出した。……兄弟揃って変なところで頑固なんだなぁと。