だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

196.港町と共犯者

 貴族会議の一週間後。色々と準備を終えた私は、偶然にも訪れたイリオーデ不在の機を逃さずカイルと二人で作戦会議をしていた。

「貴方って確かマクベスタのルートだけはやり込んだって言ってたわよね?」
「おう。マクベスタのルートだけ鬼のように周回したぜ」
「ならさ、スコーピオンって組織覚えてる?」
「あー……なんかいたな、そんな奴等。それがどしたんよ」

 未婚の男女が部屋に二人きりと言うのがあまりよろしくないとかで(割と今更)、部屋に常に侍女の一人が待機しているものの……私達はそれも構わず堂々と日本語で会話する。
 お陰様で侍女の顔がもうぽかんとしている。この世界には元々存在しなかった言語だもの、仕方無いわ。

「私ね、近いうちに彼等に会いに行くつもりなの。カイルも一緒にどう?」

 この計画に皆を巻き込むつもりは無い。だがまぁ、カイルなら巻き込んでもいいかなーと思った訳ですよ。だってコイツ、敵国の王子だし。それに私と同じ転生者で運命共同体の仲間だし。

「帝都の聖地巡礼はもう八割終わったしな……ちょっと暇してたしいいぜ、面白そうじゃんそれ」
「流石はカイル。ノリが良い!」

 細かい事情を伏せて誘ったので、後で文句を言われないように、よっ! と適当にヨイショしておく。するとこのチョロい男は「まぁ? ノリで生きてきたオタクなんで?」と得意げになった。
 そういえば、カイルは冬が終わってからというもの、暇さえあればウチに来て帝都の聖地巡礼をしている。あのシーンの道があっただの、あのイベントの食べ物があっただの……毎度感想を聞かされたのでよく覚えている。

「で、何であの組織の所に行く訳? アイツ等って悪役……っつーか、ミシェルが自分という存在の特別さを再認識して思い悩む為のフリみたいな存在だったろ」
「ド直球過ぎるわよ。いくら事実だとしても、もうちょっとオブラートに包んであげなさいよ。彼等が可哀想だわ」

 確かにその通りで……スコーピオンとは、別のルートにて戦争で多くの死を見てミシェルちゃんが今一度自分の力がなんの為にあるのか、と己を見つめ直す流れの代わりに存在する。戦争に出ない代わりに、スコーピオンという存在との戦いで己を見つめ直す事になるのだ。
 だから、まぁ……確かにカイルの言う通り、彼等は物語を盛り上げる為の舞台装置に過ぎない。しかし、しかしだ。
 例え舞台装置だったとしても、今この世界では実際に生きている訳で。だからにべもなくあんな風に言うのはどうかと私は思うのだ。

「スコーピオンに会いに行くのは後の事を考えてよ。ちょっと、彼等の力を借りたいの」
「まーアイツ等ゲームでもそこそこ強かったしな。オセロマイトの遺産を使っての事だったけどよ」
「そうよ。彼等は強いの。だからその力を拝借する為に、交渉に行かなきゃいけないの」
「なるほどなるほどぉ、いいじゃん。んで、どこ行くん? てかいつ?」

 本当に話が早い。カイルはケロッとした顔でいつ行くのかを聞いて来た。

「場所は帝国北部のアルブロイト領にある港町ルーシェ。詳しい座標は後で地図を渡すから、サベイランスちゃんでそこまで連れて行って欲しいの」

 実はカイルを共犯者として巻き込む事にした理由の中でもっとも大きいのが、これである。私は王女で、実の所あまり勝手な行動が許されない立場にある。
 その上で、過保護な皆に内緒で馬車で三週間はかかるという港町まで行き、スコーピオンと交渉して帰って来るのは、はっきり言って無理難題。
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