だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「とにかく兄貴が目覚めてくれたら俺が継承権を放棄した事もどうでもよくなるだろ? したらこのくだらない話し合いも終わるんだからさ。何なら俺が大司教連れて来るけど?」
てか、俺が最初からそうしてりゃ良かったんだ。何で今まで継承権の放棄だけで満足してたんだ俺。
「大司教を連れて来るだと……? 貴様にそのような力がある訳なかろう! 法螺を吹き、大口を叩くのもいい加減にしろ!!」
「そんなに兄貴に目覚めて欲しくねーのか、親父は」
「論点をすり替えるな!!」
親父の激高を聞き流しながら、俺は空間魔法を使った。足元に浮かぶ白い魔法陣。それを見た親父と兄貴達は目を白黒させていて。
「今から頑張って大司教連れて来るから。じゃあな」
「ま、まて……カイル、貴様の魔力は確か風の筈……ッ」
二番目の兄貴が困惑した顔で呟くも、俺はそれを無視して瞬間転移を発動する。神殿都市には既に一度行っているので、サベイランスちゃんを使う必要も無い。神殿都市の外壁上に転移した俺は、平然と目の前の結界を素通りする。
アミレス曰くこれは招かれざる者に対する結界らしいので、カイルのような神に愛され過ぎた存在は素通り出来てしまうのだ。さっすがチートオブチートのカイルだわ。
外壁から飛び降りて着地する寸前で風の魔力で浮かび、トンッ……と華麗に着地する。
この都市は年がら年中信徒がやって来るとかで、俺みたいな部外者がこっそり紛れ込んでもバレない。なので白亜の街を堂々と歩き回り、ゲームで見た覚えのある顔を捜す。
前にラフィリアを拉致った時はエンヴィーがいたから楽だったけど、今回は自分の足で捜さないといけないから大変だ。
「ま、何人かの大司教がいそうな場所はゲームで見たから何となく分かるけどよ」
朧げな記憶を頼りに向かった先は神殿都市にある大図書館。そこの奥の方にある休憩スペースのような場所。ゲームでミシェルが勉強の為によく利用していたスペースで、神殿都市でミシェルの父親代わりのような存在になる稀有な大司教──、
「……ビンゴ」
エフーイリルと頻繁に出会える場所。大司教達がミカリアと仲のいいミシェルに嫉妬したりする中、この男は常に冷静で物腰柔らか。何度か勉強を見てあげるうちに、両親がいないミシェルの親代わりになろうとするエルフ族の男だ。
大司教は忙しいって聞くし、正直いないと思ってたんだけど……まさか本当にいるとは。俺ってば超幸運じゃね?
静かに読書をするエフーイリルにゆっくりと近づき、俺は腰を曲げて挨拶をした。
「読書中に申し訳ございません。俺はカイル・ディ・ハミルという者です。本日は、大司教様に折り入ってお願い申し上げたい事があり推参致しました」
「ハミルディーヒ王国から遠路遥々ようこそお越し下さいました。神々のご加護があらん事を……時に、お願いとは?」
エフーイリルはパタリと本を閉じて傍の机に置き、優雅に立ち上がっては一礼した。
あ! それゲームで見た言葉だ!! やっぱちゃんと言うんだなそういうの……聖職者かっけぇ……。
「実は俺の兄が一年近く昏睡状態で……父は兄を助ける気がないのか全く動かず困り果てていた所なんです。お願いします、どうか兄を助けてください!」
ハッとなり慌てて本題に入る。頭を下げて頼み込むと、
「顔を上げて下さい。お兄さんの為に一人でここまで……分かりました、お引き受けします。誰であろうと平等に救いの手を差し伸べる事こそが我々の務め。ワタシの持てる力を尽くすと約束しましょう」
「……! ありがとうございます!」
エフーイリルは快諾してくれた。本当にいい人だ。
もう一度感謝から頭を下げると、エフーイリルが「ハミルディーヒ王国は遠いですし、転移装置の使用許可をいただいて来ますね」と言って何処かに向かった。
その背を追い、「待ってください!」とエフーイリルを引き止める。立ち止まって振り向いたエフーイリルの顔には困惑が浮かぶ。
「あの、俺、空間魔法が使えるので……行き帰りはお送りします!」
「空間魔法が? それは助かりますが、大丈夫ですか? ここからハミルディーヒ王国までとなるとかなりの距離がありますし、二人同時にとなると貴方への負担が……」
「大丈夫です、それぐらい平気ですから」
「病床の兄の為にここまで……何と眩き兄弟愛か……」
なんか絶妙に勘違いされてる気がするが、まぁいいか。
勘違いで感動するエフーイリルと共に瞬間転移でハミルディーヒの城に戻る。出た場所が先程までいた場所──つまり謁見の間だったので、クソ兄貴達とクソ親父から熱い歓迎を受けた。
「なっ、カイルまさか貴様、本当に大司教を!?!?」
「そもそも、何でテメェが空間魔法を使えんだよ……ッ!」
「国教会の大司教が……まさか本当に来てしまうなんて」
が、それを無視して俺はエフーイリルに「もう一回飛びますね」と伝える。この人達の相手が面倒なので、兄貴の所に転移する事にしたのだ。
エフーイリルは首肯して、身を任せてくれた。
即座に瞬間転移を発動して兄貴の宮殿に飛ぶ。昔、何度か兄貴の部屋に遊びに行っていた記憶を頼りに転移した所、丁度兄貴の部屋に転移したようで。
突然現れた俺とエフーイリルに、その場にいた母親と侍女達が唖然とする。
「大司教様、あそこで眠っているのが俺の兄で……」
「昏睡状態という王太子殿下ですね。少し診させていただきますね」
エフーイリルが兄貴の診察をする間、母さんが驚愕を隠し切れない表情で駆け寄って来て、
「カイルっ、あの御方は誰なの? そもそもあなた今、どこから現れて……?」
「あの人は国教会の大司教のエフーイリル様だよ。兄貴の為に俺が連れて来たんだ。今」
「い、今……?」
理解が追いつかないようで、眉尻を下げて首を傾げた。
「言ってなかったけどさ、俺って空間魔法も使えるんだよね。だからそれでちょっと神殿都市まで転移して大司教様に兄貴の事を頼んだんだ」
「空間魔法って、そんな凄い魔法を使えたの?! ど、どうして今まで……そんな凄い魔法が使えるって分かれば、あなたが周りから馬鹿にされるような事は……」
「俺の能力は隠しておいた方が平和に過ごせるって分かってたからね。母さんや兄貴を犠牲にしてまで平穏無事な日々を過ごしたいとは思わないし」
「わたくしと、キールを犠牲に……?」
困惑に首を傾げる母さんに無言で微笑みかける。
詳しく語るつもりは無い。それこそ、話したら母さんと兄貴を俺《カイル》の事情に巻き込む事になる。
それは俺としても避けたい話だ。
てか、俺が最初からそうしてりゃ良かったんだ。何で今まで継承権の放棄だけで満足してたんだ俺。
「大司教を連れて来るだと……? 貴様にそのような力がある訳なかろう! 法螺を吹き、大口を叩くのもいい加減にしろ!!」
「そんなに兄貴に目覚めて欲しくねーのか、親父は」
「論点をすり替えるな!!」
親父の激高を聞き流しながら、俺は空間魔法を使った。足元に浮かぶ白い魔法陣。それを見た親父と兄貴達は目を白黒させていて。
「今から頑張って大司教連れて来るから。じゃあな」
「ま、まて……カイル、貴様の魔力は確か風の筈……ッ」
二番目の兄貴が困惑した顔で呟くも、俺はそれを無視して瞬間転移を発動する。神殿都市には既に一度行っているので、サベイランスちゃんを使う必要も無い。神殿都市の外壁上に転移した俺は、平然と目の前の結界を素通りする。
アミレス曰くこれは招かれざる者に対する結界らしいので、カイルのような神に愛され過ぎた存在は素通り出来てしまうのだ。さっすがチートオブチートのカイルだわ。
外壁から飛び降りて着地する寸前で風の魔力で浮かび、トンッ……と華麗に着地する。
この都市は年がら年中信徒がやって来るとかで、俺みたいな部外者がこっそり紛れ込んでもバレない。なので白亜の街を堂々と歩き回り、ゲームで見た覚えのある顔を捜す。
前にラフィリアを拉致った時はエンヴィーがいたから楽だったけど、今回は自分の足で捜さないといけないから大変だ。
「ま、何人かの大司教がいそうな場所はゲームで見たから何となく分かるけどよ」
朧げな記憶を頼りに向かった先は神殿都市にある大図書館。そこの奥の方にある休憩スペースのような場所。ゲームでミシェルが勉強の為によく利用していたスペースで、神殿都市でミシェルの父親代わりのような存在になる稀有な大司教──、
「……ビンゴ」
エフーイリルと頻繁に出会える場所。大司教達がミカリアと仲のいいミシェルに嫉妬したりする中、この男は常に冷静で物腰柔らか。何度か勉強を見てあげるうちに、両親がいないミシェルの親代わりになろうとするエルフ族の男だ。
大司教は忙しいって聞くし、正直いないと思ってたんだけど……まさか本当にいるとは。俺ってば超幸運じゃね?
静かに読書をするエフーイリルにゆっくりと近づき、俺は腰を曲げて挨拶をした。
「読書中に申し訳ございません。俺はカイル・ディ・ハミルという者です。本日は、大司教様に折り入ってお願い申し上げたい事があり推参致しました」
「ハミルディーヒ王国から遠路遥々ようこそお越し下さいました。神々のご加護があらん事を……時に、お願いとは?」
エフーイリルはパタリと本を閉じて傍の机に置き、優雅に立ち上がっては一礼した。
あ! それゲームで見た言葉だ!! やっぱちゃんと言うんだなそういうの……聖職者かっけぇ……。
「実は俺の兄が一年近く昏睡状態で……父は兄を助ける気がないのか全く動かず困り果てていた所なんです。お願いします、どうか兄を助けてください!」
ハッとなり慌てて本題に入る。頭を下げて頼み込むと、
「顔を上げて下さい。お兄さんの為に一人でここまで……分かりました、お引き受けします。誰であろうと平等に救いの手を差し伸べる事こそが我々の務め。ワタシの持てる力を尽くすと約束しましょう」
「……! ありがとうございます!」
エフーイリルは快諾してくれた。本当にいい人だ。
もう一度感謝から頭を下げると、エフーイリルが「ハミルディーヒ王国は遠いですし、転移装置の使用許可をいただいて来ますね」と言って何処かに向かった。
その背を追い、「待ってください!」とエフーイリルを引き止める。立ち止まって振り向いたエフーイリルの顔には困惑が浮かぶ。
「あの、俺、空間魔法が使えるので……行き帰りはお送りします!」
「空間魔法が? それは助かりますが、大丈夫ですか? ここからハミルディーヒ王国までとなるとかなりの距離がありますし、二人同時にとなると貴方への負担が……」
「大丈夫です、それぐらい平気ですから」
「病床の兄の為にここまで……何と眩き兄弟愛か……」
なんか絶妙に勘違いされてる気がするが、まぁいいか。
勘違いで感動するエフーイリルと共に瞬間転移でハミルディーヒの城に戻る。出た場所が先程までいた場所──つまり謁見の間だったので、クソ兄貴達とクソ親父から熱い歓迎を受けた。
「なっ、カイルまさか貴様、本当に大司教を!?!?」
「そもそも、何でテメェが空間魔法を使えんだよ……ッ!」
「国教会の大司教が……まさか本当に来てしまうなんて」
が、それを無視して俺はエフーイリルに「もう一回飛びますね」と伝える。この人達の相手が面倒なので、兄貴の所に転移する事にしたのだ。
エフーイリルは首肯して、身を任せてくれた。
即座に瞬間転移を発動して兄貴の宮殿に飛ぶ。昔、何度か兄貴の部屋に遊びに行っていた記憶を頼りに転移した所、丁度兄貴の部屋に転移したようで。
突然現れた俺とエフーイリルに、その場にいた母親と侍女達が唖然とする。
「大司教様、あそこで眠っているのが俺の兄で……」
「昏睡状態という王太子殿下ですね。少し診させていただきますね」
エフーイリルが兄貴の診察をする間、母さんが驚愕を隠し切れない表情で駆け寄って来て、
「カイルっ、あの御方は誰なの? そもそもあなた今、どこから現れて……?」
「あの人は国教会の大司教のエフーイリル様だよ。兄貴の為に俺が連れて来たんだ。今」
「い、今……?」
理解が追いつかないようで、眉尻を下げて首を傾げた。
「言ってなかったけどさ、俺って空間魔法も使えるんだよね。だからそれでちょっと神殿都市まで転移して大司教様に兄貴の事を頼んだんだ」
「空間魔法って、そんな凄い魔法を使えたの?! ど、どうして今まで……そんな凄い魔法が使えるって分かれば、あなたが周りから馬鹿にされるような事は……」
「俺の能力は隠しておいた方が平和に過ごせるって分かってたからね。母さんや兄貴を犠牲にしてまで平穏無事な日々を過ごしたいとは思わないし」
「わたくしと、キールを犠牲に……?」
困惑に首を傾げる母さんに無言で微笑みかける。
詳しく語るつもりは無い。それこそ、話したら母さんと兄貴を俺《カイル》の事情に巻き込む事になる。
それは俺としても避けたい話だ。